第13話 ドワーフの国②
魔法具店で、リバールという国で一番大きい工房のドワーフの助力もあり、マナ結晶を売ることができ、資金が調達できたので、その足で2軒隣の服を扱っている店に向かった。
(とはいえ……服がどのくらいの値段なのか、分からないな。機械生産されていない頃は衣類の値段がものすごく高かったと何かで読んだ気もするが……)
(そうですね、王族や貴族、裕福な商人でもなければ、一着の服を直しながら大切に着て、寒い時期には獣を狩って毛皮などで防寒するのが一般的でしょうか、余裕のない民ほどデザインより布の丈夫さ、直しやすさが重視されます。ですが幸い資金は余裕がありますので、皆にふさわしい服が用意できるでしょう)
(なるほど、サイズを測ったのはミリスだし、この世界の衣服の知識も無いから、ここはミリスに任せるよ。変わってくれ)
(承知しました)
ミリスに主導権を渡し、裁縫店の扉をくぐった。
しかし、店内の品揃えがほとんどドワーフ用で、人間用の服もいくつかあったがミリスが納得するものは無く、仕立てるとなると、それなりに時間もかかるので、人間用で品揃えがいい店は中央地区にあるというので早々に店を出た。
(なるほど、基本的には仕立てになるのか)
(その様ですね……中央地区の店に無ければ仕立てるしかないでしょう。申し訳ありません、誤算でした)
(いや、ミリスは精霊で服が必要じゃなかったんだから、仕方ないだろ。ミリスの知識だけでも、じゅうぶん助かってるよ、それに俺だけだったら普通に3人と入ってきてたよ……それで何か問題が起きたかもしれない)
(そう言ってもらえると、助かります。では中央地区に向かいますが……)
(ん?ああ、戻さなくていいよ、このまま行こう)
中央地区に近づくにつれて人通りが増えてきた。
街の中心地は円形の広場が3つ三角形に隣り合っている。
そのうち二つで所狭しと露店が広がっていた、残りの一か所はイベントスペース的な感じか、所々で見世物が行われてたり休憩している人が見える。
門をくぐってからドワーフしか見かけなかったのが、この辺りでは人間もかなり見るようになった。獣人のような種族も何人か見かけた。さすが一国の町の中心と言ったところか、人も多く商いも盛んで賑わっている。
詰所周辺では2階建ての建物しかなかったが、3つの広場に面した建物は3階建て、4階建ての建物もある。それでも天井部まではまだ余裕があった。
どうせ最低3日は滞在することになるので、合流したらみんなで来てみるのもいいだろう。
警邏中の兵士に道を尋ねると、一時滞在の木の札に目を止め、親切に2つの店を教えてくれた。
兵士は高級店と一般的な店を教えてくれたのだが、ミリスは迷わず高級店に向かった。
店は中心の広場からのびた大通りですぐに見つかった。
透明なガラスに高価そうな服がディスプレイされている。
店に入ろうとすると扉が開き、裕福そうな客が買い物を終えたのか、店員にお見送りされている。
少し離れてそれを見ていると、立派な服に身を包んだ店員に丁寧に招き入れられた。
どう見ても俺の格好は金がありそうに見えないだろうに……好感の持てる店員だ。
「こちらにどうぞ、本日は、何をお探しですか?」
物腰柔らかな初老の男性に、入り口付近の豪華なソファーに案内される。
広い店の中央は、ドアからまっすぐカウンターまでの空間と、その横に待合のソファーがローテーブルを挟んで配置されており、じゅうぶんな余裕をもって、ついたてで四方が囲まれている。隣にもう一つ同じスペースがあるようだ。
店に入って左側も衝立で仕切られていて、壁には天井付近まで布が収められている。
おそらく採寸などをするスペースなのだろう。
店の右側は棚やハンガーに様々な商品が並んでいる、奥に扉とカーテンの付いた小部屋が二つ、トイレとフィッティングルームだろうか。
「アンダーウェアを探しに来ました。サイズは4種類、上下で丈夫な物、出来れば伸縮性のある生地が好ましいです」
「かしこまりました。騎士様の鎧下用の布でしたら、丈夫で多少の伸縮性があります。何種類かありますが生地をご覧になりますか?」
「はい、お願いします」
男性が下がると入れ替わりに、高級店にふさわしい店の制服に身を包んだ女性がお茶を運んでくる。
(マスター、値段が分からないので、まずはロスタスの3人の分、マスターの分、余裕があればそれを2~3セットは欲しいですが、3日間の滞在費も残しておかなければなりませんし……服は一般的な安いものを、もう一方の店で探そうと思っています)
(俺の分はとりあえず後回しでいいよ、本格的な装備も3日後に残金を受取ってから揃えよう)
(わかりました。ありがとうございます……あ、このお茶とても美味しいです!)
「お待たせいたしました。布見本をお持ちしました」
初老の紳士が、布見本を持って戻ってきた。
……その時。
ルゥオオオオオォーーーーーーーーーーーーン
建物の天井の更に更に上、ドワーフ王国の巨大な大洞窟のある、ダイオス山の上の方で振動を伴って大きな声がする。
低いものから高いもの、いくつもの高さの風の音を束ねたような声。
その大音響が、ダイオス山の斜面に作られたドワーフ王国の吸排気口を伝わって国全体に響き渡る。
(な?なんだ?!ミリス、敵か?危険なものか?!)
初老の紳士は、胸に手を当て、その声を目を閉じて聞いている。
(マスター、ご安心ください危険はありません。ダイオス山の守護竜ルスダイオスの咆哮です。時折り、昼頃になるとこの辺りに響き渡るのです、私が眠りにつく前と変わらない雄々しい声です)
「ルスダイオスの祝福を賜りました、お客様との出会いも、きっと良いものになるでしょう。3種類お持ちいたしました。どうぞご覧ください」
「こちらの布は伸縮性はありますが、女性がご利用になると多少窮屈に感じる事があるかもしれません。サイズは3種類、上下セットで大銀貨4枚です。次にこちらの布は、より伸縮性があり女性でも問題なくご利用頂けます。サイズは3種類、上下セットで大銀貨6枚です。こちらの布は伸縮性も申し分なく、丈夫で火に体制もある上、通気性にも優れていますが、オーダーメイドのみとなっておりまして。上下セットで金貨1枚です」
「わかりました。今は仕立てを待つ時間がありませんので、大銀貨6枚の物を3サイズ見せてもらえますか?」
かしこまりました。と一礼をして見本を持ちカウンターで一言告げてから、奥に下がっていく。
(ミリス、大銀貨10枚で金貨1枚って事か?)
(はい……私の知っている時代のものと変わりがなければ、銅貨20枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚です。大銀貨は銀貨10枚分です)
(アンダーウェアが月給の半分か……)
(糸を紡ぐのにも、布を織るのにも技術も手間もかかりますので、安価なものもありますが、作りも着心地も悪いですし、農村などでは、簡易な布を巻くだけだったり、下着をつける習慣のない所も多いと聞きます)
店員の持ってきたお茶のおかわりを、嬉しそうに飲みながらミリスが答える。
(俺のいた世界ではさ、製糸も製織も機械で大量に生産してたから安価でいいものが手に入ってたんだよな。もちろん職人が手織りする高級品もあったけれど)
(マグナスでもマナ動力で動く機織りの機械はそれなりにありました。値段はだいぶ抑えられた様ですが安価というまででは無かったですね。ですが、将来マスターが主導して作られるのも素敵ですね)
「失礼します。3種類のサイズをお持ちしました」
(ミリス。3枚を4人分で金貨7枚ちょっとだろ?足りるなら問題ないから、任せる)
(はい、お任せください)
サイズを確認してレイン用にS、俺とヘイル用にM、クロード用にLを3セットずつ購入し、皮手袋が買える店を教えてもらって店を後にした。
店を出て人目に付かない店の影で、購入品をインベントリに収納し、教えてもらった革製品の店で革手袋を4つ、背負いの革の鞄を1つ買い、カラの鞄を背負って革手袋はインベントリへ、値段はミリスが交渉して全部で大銀貨4枚。
最後に兵士に聞いていた一般的な衣服の店に寄り、3人分の衣服を購入。
ミリスのセンスで選んで貰ったが、長袖で首まであるアンダーウェアと、元々着ていた袖の無いデザインの服で合いそうなものが無かったため、半袖と長ズボン、レイン用には半袖に膝下丈のスカートで、一部革で補強された旅用の丈夫な服を購入。
値段交渉し3人分で大銀貨5枚までまけさせた。残金は金貨6枚と大銀貨9枚。
短期間でミリスの値段交渉能力が上がっている。
必要なものが一通り手に入ったので、仲間を探しに行くと門番に告げ、外に出る。
鞄を背負っているから、街で準備してきた風には見えるだろう。中は服のみだけど。
3人の元に戻り、買ってきた服を渡すが、3人とも買ってきた見慣れない服に困惑して、
「キャレス殿、このような高価な品を……よろしいのでしょうか……」
と遠慮しているので、もう買ってきてしまったのだから、気にしないで着なさいと言って半ば強引に押し付ける。
3人とも感謝の言葉をとともに受け取るが、着方が分からないという事になり。
少し離れたところでレインの着替えをミリスに任せ、二人に教えて着替えさせる。
多少手間取ったが、着替えも済み。これなら街に行っても違和感はないだろう。
黒い革手袋と黒の長袖の鎧下でロスタスの民特有の文様は隠されている。
後は……靴と防具、旅に必要な物を買うのは宿を決めて腹ごしらえした後でもいいだろう。
旅に必要な物……野営に使うキャンプ用品みたいな物だろうか……
ミリスとレインが戻って来たので、改めてドワーフの街へと移動した。
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