11 新しい家族
赤いドレスに着替えて、カイザー様の到着を待っていた。
屋敷に到着したと、ルカが知らせに来てくれたので、玄関のホールへ向かった。二階から玄関ホールを見ると、筆頭執事のハリソンさんを先頭にメイド長のクロエさん達使用人さんが並んでいた。
「エミ様、慌てると危ないですよ。もう少し優雅に歩いて下さい」
「アメリアちゃん、難しいことを言わないで~」
ドレスを着て優雅に歩くのは、クロエさんに教わっている最中です。
階段の手すりを持ちながら下りて行くんだけど、足元が広がったスカートで見えない。踏み外しそうで怖いんですけど……階段を下りきる前に、カイザー様が帰って来た。玄関ホールで出迎えたかったのに間に合わなかった。うぅ……。
カイザー様の服装は黒の上下で、チュニック丈のジャケットには、金色の刺繡が施されている。白いシャツとワインレッドのベストが見えて、いかにも貴族服です。
「カイザー様、お帰りなさいませ」
「ああ、ハリソン」
ハリソンの声を合図に、みんな一斉に綺麗に頭を下げる。流石だわ~。
「エミは、どこだ?」
「カイザー様、お帰りなさい」
到着を知らせてもらったのに、そこまで辿り着けなかったんです……すみません。カイザー様は、私を見つけると階段下まで来て手を取ってくれた。
「エミ、会いたかったぞ!」
「カイザー様、出迎えに遅れてすみません。ドレスで歩くのに、まだ慣れていなくて……うぐっ」
エスコートされた手をそのまま引き寄せられて、カイザー様に抱きしめられた。
「あぁ、エミの良い香りがする……」
ひえ~~、みんなの前で羞恥プレーですよ……。
「カ、カイザー様、みなさんが居るのに困ります。違う! 臭わないでください」
「エミ、気にしなくても良いぞ」
カイザー様が微笑んで言う。今まで、玄関ホールにいた使用人のみなさんは、ハリソンさんとアメリアちゃん以外いなくなっていた。空気読みすぎ……
「そ、そうだ! カイザー様、お昼はもう食べられました?」
「エミの顔が早く見たかったから、馬を走らせながら干し肉を食べたぞ」
「えっ? 馬を走らせながら……」
お供の方々……可哀そうに……。
「カイザー様、カイザー様におやつを食べて欲しいんですけど、甘い物は大丈夫ですか?」
「エミが作るのか? 食べるぞ」
カイザー様が、嬉しそうな顔をする。
「じゃぁ、すぐに作りますので、中庭のテラスで待っていてください。ふふ」
カイザー様は、熊の獣人だから、蜂蜜とか甘い物を好きだと思うのよね~。気合を入れて作るわよ!
「ああ、分かった。着替えて待っている」
厨房へ行き、カイザー様にフレンチトーストを作ると言って材料を出してもらった。
「料理長、今日は果物と蜂蜜も使います」
「はい、エミ様。直ぐに用意します」
大きな丸パンを切って、卵液に浸しておく。その間に、ブドウやトロピカルフルーツっぽい果物を刻んで鍋に入れ、白ワインで煮立たせてアルコールを飛ばした。仕上げに蜂蜜を少し絡めてフルーツソースの出来上がり。
今日は私が焼きます。フレンチトーストをきつね色に焼いて、大きい平皿に並べ横にフルーツソースを添えた。お好みで蜂蜜を足せるように蜂蜜も持って行く。
「料理長、カイザー様のお供の方にもフレンチトーストを出してあげて欲しいんです。お昼ご飯を余り食べていないみたいなので、よろしくお願いします」
「わかりました」
アメリアちゃんが用意してくれた紅茶と一緒にカートに乗せて中庭へ向かった。
カイザー様が、着替えて紅茶を飲んでいた。ハリソンさんが控えていたので、ハリソンさんが紅茶を入れたのかな。横に並べてあるイスに座ってフレンチトーストの説明をする。
「カイザー様、お待たせしました。これは、フレンチトーストって言う、私の国の料理なんです。そのまま食べても良いですし、フルーツのソースと一緒に食べても良いです。甘さが足りなければ蜂蜜を足してくださいね」
「ほお~、エミが作ったのか」
「はい。カイザー様、召し上がれ~」
私は、にっこり微笑んだ。カイザー様は、フレンチトーストを一切れ口に入れると、目を見開いた。
「エミ、美味しい!」
「ふふ、良かった。ありがとうございます」
カイザー様は、蜂蜜を足して、アッという間に食べ終わってしまった。やっぱり、甘い物が好きだったのね。それとも、お腹が空いていたのかな? ふふ。
「エミ、美味しい料理を作ってくれて礼を言う」
「いえ、カイザー様……」
言いかけた途中で、カイザー様の手が伸びて来て、私の頬に触れると同時にカイザー様が唇を塞いだ。優しいキス……唇が離れると、カイザー様が私の目を見つめて、ゆっくり言った。
「エミ、夕食後に大事な話がある」
えっ? ドキッとした。
「はい、カイザー様……」
カイザー様は、仕事をしてくると執務室に戻って行った。
◇
大事な話って何だろう……気になってしまう。部屋に戻ると、アメリアちゃんにお風呂に入れられ、念入りに磨き上げられた。
「ねえ、アメリアちゃん。話って何だと思う?」
「さぁ~。私には分かりませんが、エマ様、楽しみですね」
アメリアちゃんは、にっこり笑顔で答えてくれた。
薄くお化粧をしてもらい、ドレスを着せてもらった頃には良い時間になっていて、ハリソンさんが、夕食の準備が出来たと声を掛けに来た。
食堂に着いて座ると、すぐにカイザー様が来られた。
「エミ、待たせたな」
「いえ、今来た所です」
カイザー様とグラスを掲げて乾杯すると食事が始まった。カイザー様はワインだけど、私はジュースにしてもらっている。
「エミ、視察に行った者達にもフレンチトーストを出してくれたんだな。皆、喜んでいたぞ」
「そうですか。料理長にお願いして出してもらったんです。お口に合ったのなら、良かったです」
食事が終わり、カイザー様にエスコートされて談話室に向かった。カイザー様が、何も喋らないからドキドキしてきた……。
談話室に入り、カイザー様の横に座るように促され、ソファーに並んで座ると、ハリソンさんが飲み物を出してくれた。そして、頭を下げて部屋から退出した。二人っきりだ……。
「エミ、話と言うのは……私は、騎士団の任務で、7月半ばから<獣王都>に赴かねばならない」
「はい、8月から1月までの6か月間、<獣王都>で第一騎士団隊長の職務と社交界があると伺っています」
「ああ、そうだ。そんなにも長い間、エミと離れることなど出来ない。今回の視察で良くわかった。だから、エミ、<獣王都>に付いて来て欲しいのだ」
「カイザー様……」
カイザー様は、嬉しいことを言ってくれる……留守番すると思っていましたよ。
「エミ、<獣王都>に着いたら獣王に拝謁するのだが、その時、ベネット侯爵夫人として拝謁をしてもらう」
「えっ? 番つがいじゃなくて侯爵夫人ですか?」
「ああ、番つがいがいると言うのに、縁談の話を持ってくるヤツがいるからな。本当は、エミを誰にも見せたくはないのだが……エミの存在を公にすることにした」
カイザー様は、平気で恥ずかしいことを言う……恥ずかしいじゃない。カイザー様が、私の両手を握って見つめる。これは……ドキドキして来た。
「エミ、結婚しよう。私と家族になって欲しい」
「!」
『家族』……カイザー様、その言葉は嬉しいです。あ~、心臓がバクバクと……恥ずかしくて目を逸らしたくなるけど……ちゃんと、答えないと。
「はい。カイザー様、私を家族にしてください」
「エミ! 嬉しいぞ!」
カイザー様は、満面の笑みで抱きしめてくれた。ぐっふ! 力いっぱい抱き締めないで!
「カイザー様、く、苦しいです~」
はぁ~、抱きしめてくれるのは嬉しいですけど、少しは力加減を覚えて下さい……
抱きしめる腕が緩められ、カイザー様の唇が優しく頬に触れる。
「あぁ、力を入れ過ぎてしまった。すまないエミ……」カプッ!
カイザー様は耳元で囁き、耳朶を甘噛みし始めた……ひゃっ! こ、これは……耳に触るのは求愛行動だっけ。顔が熱くなってきた……もうダメ。心臓が壊れそうよ。
「エミ、部屋に連れていくぞ」
「うぅ、カイザー様……」
お姫様抱っこされて、カイザー様の部屋に連れて行かれた。
◇◇◇
その後の、結婚式までが早かった~。
翌日、私は、カイザー様の隣部屋(続き部屋になっているそうです)に引っ越すことになった。そして、お抱えの仕立屋さんが来て、ウエディングドレスの打ち合わせをした。
カイザー様が、早く式を挙げたいと言ったので、ウエディングドレスが出来上がり次第、結婚式を挙げることになった。
「カイザー様、<獣王都>に行くまで、まだ時間があるのに……慌てて式を挙げなくても良いんじゃないですか?」
「エミの気が変わらないうちに、式を挙げたいのだ。フフ、逃がさないがな」
「えっ……」
カイザー様は、ちょっと怖いことを言う……。
仕立屋さんが、カイザー様と私の希望を聞いて、数日後に20着のデザインを持って来た。そして、カイザー様が選んだ3つのデザインの中から、私がウエディングドレスに1つ選んだ。残った2つは、カイザー様の指示で赤いドレスになった。
ベネット侯爵領の貴族には、結婚の知らせを出したけど、結婚式の日取りが急なのと、私の要望もあって身内だけで結婚式を挙げた。だって、知らない人ばっかりだしね。その代わり、後日、披露宴パーティーは盛大に2日続いて行われた。
私に、新しい家族が出来た……
この家族を大切にしよう。
————————————————————————————
・あとがき・
読んで頂いてありがとうございます。
夢の中の住人 Rapu @Rapudesu
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