10 フレンチトースト

 ここのランチは、大皿に香辛料をたっぷり効かせた鶏肉みたなのと、甘い香りのフルーツがのっている。それと、別の籠にカットされたパン。1人前の量が、日本の店で出す2人前はあるよ。カイザー様のお屋敷でも思ったけど、この量が普通なのね。


「エミ、無理をして全部食べなくてもいいからな」


「はい。カイザー様、ありがとうございます」


 気遣ってくれるのが嬉しいな。食べながら、カイザー様に<レジナ>のことを聞いた。この街は、ベネット領最大の街で、ベネット領で収穫される農作物が集まってくるそうです。そして、繊維製品も盛んに作られているそう。


「エミ、次のデートの時に着る服を選ぼう」


「えっ、カイザー様、服は十分プレゼントして頂きましたよ。デートしてくれるだけで嬉しいですから~」


 にっこり答える。あっ、今着ているパーカーとスキニーがお気に召さないのね……ちゃんと、ワンピースを用意していたんですよ。本当はね。


 ランチの後、カイザー様に、大通りにある服屋に連れて行かれ、次のデートに着る服を買ってもらった。


 胸元と半袖はシースルーになっていて、ギリシャ神話の女神が来ているようなバスト下で切り替えがあるワンピース。スカートの丈はふくらはぎの長さで、目が覚めるような赤……カイザー様の瞳に合わせているそうです。


 そうですか、瞳の色ですか……派手だからイヤだと言えないじゃないですか。


「エミ、とても似合っているぞ。フフ」


 カイザー様が、嬉しそうに微笑んでいる。ああ、そう言えば、初めにプレゼントしてもらったドレスも赤だったな。


「カイザー様、ありがとうございます」


 街を歩いている獣人さん達は、みんな派手だからそのうち見慣れるかな。


 その後は屋敷に戻った。カイザー様を、長時間連れ回すのは申し訳ない。又、デートしてくれるって約束してくれたしね~。


 翌日からカイザー様は視察に行った。その街まで2日ほど掛かり、帰って来るのは6日後になるそうです。私はお留守番……顔を見ないのはちょっと寂しいなぁ。


 気分転換に、簡単に出来るフレンチトーストでも作ろうかな~。


「アメリアちゃん、作りたい物があるんだけど、厨房の端っこを少し貸してもらえないかな?」


「えっ! エミ様、料理は危ないですよ。貴族の令嬢は、料理はされませんよ」


 アメリアちゃんに、私は、貴族じゃなくて一般人、私の国では多くの女性が料理をするのよと説明した。


「アメリアちゃん、甘くて柔らかいパンを食べたくない?」


「えっ、エミ様。パンを作るのですか!?」


「う~ん、パンを作るんじゃなくてね、パンで甘いおやつを作るの」


 パンも作れなくはないんだけどね~。簡単なフレンチトーストにする。部屋から出ると、ルカが警備していた。


「エミ……様、どこに行くんだ?」

「ルカ、厨房よ。ふふ」

「ルカさん、もう少し言葉使いを覚えて下さいね」

「あっ、はい。アメリアさん、すみません……」


 おぉ……アメリアちゃんのダメ出しが入りました。ルカは、しまったと言う顔をしている。別に言葉使いなんて、前のままで良いんだけどね。でも、それだと他の所では通用しないだろうから、ルカ頑張ってね。


 料理長に頼んで厨房の端を貸してもらう。パン・卵・牛乳・砂糖とバター、全部ありましたよ。砂糖の色がちょっと茶色いけど……。


「料理長、お邪魔してすみません。それと、材料をありがとうございます」


「エミ様、異国の甘いおやつを作ると聞きましたが、お手伝いしてもよろしいですか?」


「とても簡単なおやつなんですよ。料理長、焼くのを手伝って下さい」


「はい、任せてください」


 ボールに、卵・牛乳・砂糖を混ぜた卵液に、堅くて大きい丸パンをスライスして浸す。うわぁ~、卵液がしみていく~。1時間ほど浸すレシピを見たことあるけど、私は5分ぐらいで焼くの。


「料理長、これを、浸したパンをバターで焼いて下さい」


 ここのコンロ?魔石を使うそうです。使い方が分からないし、火力が分からないから料理長にお任せする。


「エミ様、焼いてよろしいですか?」

「はい。試しに1つ焼いてみて下さい。味見します」


 あぁ、ジュッと良い音とバターの香りがする。


 キレイな焼き色を付けてもらい、お皿に入れて一口にカットする。そして、早速、味見した。パクッ、


「う~ん! 上出来よ。どうぞ、味見してください」


 ルカの手が1番に伸びて来て、フレンチトーストを口に入れた。


「エミ! 凄く旨いよ。もぐもぐ……エミの作った料理はやっぱり旨いな~!」


「ふふ、でしょ~!」


「ルカさん! 呼び捨てはダメだと言ったじゃないですか、『様』は必ず付けて下さい!」


「アメリアさん、すみません……」


 ふふふ。この二人は、良いコンビになりそうね。料理長にも美味しいと言ってもらえたので良かった~。その後、何枚か焼いて、アメリアちゃんに紅茶を用意してもらって、中庭のテラスに行って3人で食べた。私が、一緒に食べるようにお願いしました。ふふ、美味しい物は、みんなで食べる方がもっと美味しくなるからね。


 厨房に戻って、料理長に、カイザー様が帰って来たら作りたいから、材料は常備しておいて下さいと頼んだ。


 側で見ていた料理人たちも、料理長に作ってもらって美味しそうに食べたそうです。


「エミ様、このフレンチトーストのレシピを使わせてもらっても宜しいですか?」

「良いですよ~。あっ、料理長、屋敷の人以外には教えないで下さいね」


 料理長は、ベネット家のオリジナルレシピにすると言ってくれた。


「エミ様、厨房でしか作りませんし、特別なお客様にしかお出ししません」


 料理長に、手伝ってもらったお礼を言って部屋に戻った。 



◇◇◇

 カイザー様が、視察に出かけて3日目。カイザー様から手紙が届いた。嬉しくて、すぐに手紙を広げてみると、


『愛しいエミ、顔が見たい。早めに帰る』


 これは、ラブレターだよね。たった一行の手紙だったけど、ドキドキしてしまった。嬉しい……。


「アメリアちゃん、カイザー様に返事を書いた方が良いのかな?」


「エミ様、今、返事を送っても、入れ違いになるかも知れませんよ」


「そっか~、カイザー様に届かなかったら困るね」


 あれ? この手紙はいつ出したんだろう……ここから2日掛かる街に着いてから出したのかな? それだと、時間が合わないね。



 それから2日経ったお昼過ぎに、カイザー様が帰って来られると先触れが来た。

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