9 専属の護衛
屋敷を出て、賑やかな方へ歩いて行く。
「アメリアちゃん、私ね、<レジナ>の街を散歩するのは初めてなのよ。お勧めのお店を案内して欲しいな~」
「えっ? エミ様、街中を歩いたことないんですか?」
門から屋敷までを、カイザー様の馬で歩いたことしかないと伝えると、
「エミ様、お出かけを本当に楽しみにしていたんですね……」
「うん、そうなのよ~。だから、次の光の曜日までなんて待てない! 今日、街の中を散歩したいのよ。ふふ」
任せて下さい! と、気合の入ったアメリアちゃんに街を案内してもらう。
「ねえ、アメリアちゃん。貴族じゃなくて、街の人が買いに行くお店を教えて、どんな服が流行っているのか知りたいの」
「はい。エミ様、ご案内します」
アメリアちゃんは、本通りから中に入った所にある、街の人が買い物に来るお店に連れて行ってくれた。
窓から見える服は、南国のリゾートで着るようなカラフルな色の服だった。
お店に入って見てみると、セクシーなデザインが多くて……色んな所が開放されている。胸元はもちろん、おへそとか背中全開とか……これは、私にはムリ。値段は手ごろで良いんだけどな~、銀貨2枚からある。
「アメリアちゃん、ちょっと……色々と見えすぎじゃない?」
「エミ様、腕を見せないで、胸元を隠した服を着るのは貴族だけですよ」
庶民は、袖なしや胸元が開いた服とか、シースルーを多く使った服を着るそうです。1年の半分が夏で暑いからだって~。ちなみに、来月の5月~10月が夏らしい。
「ええ? 今、アメリアちゃんが来ている服は、私服でしょ?」
露出が少なめの、ブラウンとオレンジのワンピース。そういうのが欲しいのよ。
「いえ、この服は、屋敷の者が街に出る時用に支給されている服ですよ。ベネット家の使用人にも品位を求められていますから」
アメリアちゃんが来ているような服は、普通のお店では売っていないそうです。凄いね~、外出着まで支給されるんだ。
「エミ様、ハリソン様より財布を預かっていますので、気に入った物があったら言って下さいね」
「ええ! それは悪いわ……」
でも、夏に向けてドレス以外の普段着が欲しい。このパーカーでは、すでに暑いです。露出の少ないワンピースを1枚だけ買ってもらった。色は……色相環でいうと黄緑から青紫までの色が全・部・入っていて、半袖のAラインのワンピース。袖と膝下はシースルーになっています。銀貨5枚でした。
アメリアちゃんに、持っている銀貨を渡そうとしたけど、受け取ってくれなかった。
「エミ様、私が叱られてしまいます」
「えっ……」
私の持っているお金って、<ベレン>で稼いだ銀貨2枚と銅貨4枚しかないのよね。働かないとね……。
お店を出ると、声を掛けられた。
「エミ、探したよ!」
聞き覚えのある声……ん? 振り向くと、そこには<ベレン>で助けてくれた、犬獣人のルカがいた。ツンツン頭の茶色い髪でパッチリした黒い目の10代半ばの男の子。
「ルカじゃない! 元気そうね~、<レジナ>には仕事?」
「フフフ、エミの護衛に雇って貰ったんだ。今は、執事の勉強もしているんだよ」
「えっ、ルカが私の護衛?」
ルカは、私の専属の護衛にならないかと、カイザー様から手紙を受け取ったそうです。そこには、知らない人が護衛につくより、顔見知りの方がエミも気が楽だろうと書いてあったそうで、ルカはその話を受けてくれたそうです。
「ルカさん、いくらお知り合いでも、呼び捨てはダメです! エミ様は、カイザー様カ・イ・ザ・ー・様・の
「すみません……」
ルカはシュンと小さくなった。
ルカは、数日前<レジナ>に着いて、屋敷で執事のハリソンさんに色々教えてもらっているそうです。言葉遣いやマナー、剣の練習までしているそうです。ハリソンさんは、何でも出来るのね……凄いわ。
「そうなんだ。ルカ、護衛を受けてくれてありがとう」
「オレにとっても良い話だったしね。給金もらえて勉強できるんだよ? しかも、エミ……様の護衛だよ? 引き受けるさ」
カイザー様の心遣いが嬉しいな~。ここからは、護衛のルカも一緒です。ふふ。
「では、行きますか~! ねぇ、アメリアちゃん、次は市場を見たいわ~」
「エミ様、ご案内しますね。ふふ」
「フフ、エミ……様、護衛もついて行きますよ」
大通りに戻って市場がある方へ歩いて行くと、また私を呼ぶ大きな声がした。
「エミ!」
後ろから私を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、今度は、従者を連れたカイザー様がいた。うっ、目立っていますよ……男前だぁ。
「あれ? カイザー様、お仕事が忙しかったんじゃぁ?」
「何を言っている。エミより大事なものはないぞ!」
ぐっは、大通りで大声……恥ずかし過ぎる……。
「カ、カイザー様……ありがとうございます」
「エミ、遅くなってすまない」
ええっ! 大通りでカイザー様に抱きしめられて身動きが取れない……ぐっ、力を弱めて下さい……。視線を感じる……アメリアちゃんとルカが微笑ましそうに見ている。通りすがりの人にも……みんなに見られているじゃないですか!
「カイザー様、く、苦しいので放して下さい」
「あっ、すまない」
カイザー様は、仕事を終わらせて私の部屋に行くと、私がいなくて驚いたそうです。執事のハリソンさんに、話を聞いて慌てて追いかけて来たんだって。
カイザー様の従者が、『今日は忙しいから無理だ』と言ったのは、自分がアメリアちゃんに誘われたと勘違いしたそうです。
「信じられない、ありえないです!」
「すみません……」
従者さんは、小さくなって謝っている。アメリアちゃんは、プリプリ怒っているけど、怒っている姿も可愛いよ~。
「勘違いだったんですね。じゃぁ、カイザー様、今からデートをしましょう! ふふ」
「ああ、エミ、何処に行く所だったのだ?」
「カイザー様、市場を見に行きたいんです。私の国の食べ物と似たものがあれば良いな~、と思いまして」
「そうか、分かった。エミ、行こうか」
カイザー様は、微笑んで手を取ってエスコートしてくれた。自分の服装を見ると、ドレスを着て来れば良かったと思うよ。
従者さんは仕事が残っているからと、ペコペコ頭を下げて屋敷に帰って行った。
4人で市場に向かうと、甘ったるい匂いがしてきた。トロピカルフルーツみたいな、甘い香り……。変な形の果物もあるけど、おぉ~! リンゴ・レモン・オレンジ・ブドウっぽい果物がある。
「カイザー様、果物を買ってもいいですか?」
「エミ、果物が好きなのか? 好きなだけ買うと良いぞ。フフ」
見たことある果物を少しずつ買ってもらった。日本と同じ味か確かめてみるの、ちょっと楽しみよ。ふふ。荷物はアメリアちゃんが、ハリソンさんから渡されたアイテムバッグに入れてくれた。
ランチは、アメリアちゃんおススメの、カフェみたいなお店で食べることになった。アメリアちゃんとルカは、気を使って離れた席に座っている。私はカイザー様と二人で、ランチデートです。ふふふ。
「カイザー様。護衛に、ルカを雇ってくれてありがとうございます」
「エミ、他にも付けるからな」
「えっ、そんなに付けてもらわなくても、大丈夫ですよ」
大勢で街中を歩くと目立ってしまうし、仰々しいのは遠慮したいです。
「エミ、屋敷の外では攫われることもあるのだ。だから、出かける時は必ず護衛をつける。出かけないのならいいが……」
「で、出かけます! カイザー様、その時はよろしくお願いします」
この世界は治安が良くないのかな? 出かけたいから護衛は受け入れます。
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