おまけ

8 はじめてのデート

 カイザー様の屋敷に来て1週間が過ぎた。私は、異国からきた人間なので、<獣王国>のことは何も知らないと伝えてもらっている。


 カイザー様は、私の世話係に数人のメイドさんを付けると言ってくれたけど、自分のことは自分でするから最低限の人にして欲しいとお願いした。


 そして、私の専属のメイドについてくれたのは、夢で来た時にお世話をしてくれた、垂れ耳の犬獣人アメリアちゃん。背の高さは私と同じぐらいで、ふわふわしたアメ色の髪で、褐色の大きな目の女の子。18歳だって~、凄く可愛いの。そうね……犬に例えるならトイプードルかな。


「エミ様! またそんな冒険者みたいな格好をして……」

「アメリアちゃん、これ動きやすいのよ~。夕食前に着替えるからね」


 はじめ、「アメリアちゃん」と言うと『主従の関係ですから、呼び捨てにして下さい』と言われた。でもね、私は、この世界に迷い込んだ身分のない一般人だしね。アメリアちゃんは、垂れ耳ついているし! 年下で可愛いから『アメリアちゃん』としか呼べないわ。


 この屋敷に来て直ぐに、服の仕立屋さんが呼ばれて採寸された。ビビッドカラーの既成服でファッションショーさせられました。


「えっと、もう少し落ち着いた色が好みです……」

「はい、かしこまりました」


 すぐ着られるようにと、その場であちこち詰められた。獣人さんは、みんな大柄なのよね~。私は中肉中背で、身長は160cmあるのに屋敷の中でも小さい方。


 そして、鮮やかな赤い色のヒラヒラドレスを着せられるけど、動き難くて仕方がない……着ているだけで疲れるので、こっちに飛ばされて来た時に着ていたパーカーとスキニーパンツは手放せない。ちょっと暑いけどね。


「エミ様、早めに着替えて下さいよ」

「うんうん。アメリアちゃん、ありがとね~」


 採寸した2日後、カイザー様からのプレゼントが届きました。大きな箱を開けると……オーガンジーをふんだんに使った、真っ赤なオーダーメイドのドレスが入っていた。これ、私が着るの? その後、オーダーメイドのドレスは毎日届いて、カイザー様と夕食を一緒にする時にお披露目しています。既製服を合わせると、もう10着以上あるんですけど、どれだけ作るのか。


 カイザー様は、第一騎士団長として<獣王都>にいる期間が長くて、社交の期間(11月~1月)を合わせると、8月から1月までの6ヶ月間も領地を離れているそうです。領地に戻って来ると、毎年、視察と雑務処理に追われるんだって。1年分の仕事を半年でするわけだしね~、それは忙しいわね。


 なので、朝食は一緒に食べるけど、夕方は、まだ2回しか一緒に食べていない。1回目の夕食で赤を着せられて、今日はピンクだよ……。


「エミ! 良く似合っているぞ!」


 カイザー様は、ドレス姿の私を見てニコニコと褒めてくれる。


「カイザー様、ステキなドレスをありがとうございます。もう充分ですよ……」

「うん? ドレスはもういらないのか? では、装飾品を贈ろう」


 カイザー様、アクセサリーはドレスと一緒に届けられていますよ。私の相手が出来ないからプレゼントしてくれるのかな?


「カイザー様、ドレスや装飾品よりもお願いしたいことがあります」


 食事が始まり、食べながら思っていることを言った。


「ほお、エミ、何だ?」

「カイザー様、お休みの日に<レジナ>の街を案内して下さい。デートがしたいです」


 カイザー様の屋敷に来てから一歩も外に出ていない……恋人同士になったと言うのに、デートの1つもしていないのよ。


「エミ、デートとは何だ?」


 あぁ……向こうの言葉、全部は伝わらないのね。


「えっと、好意をもった2人が、行動を共にして散歩したり外食したりするんです」


 向こうの世界では、それをデートと言うのだと伝えた。


「好意を持った2人……逢引だな。フフ、分かった。エミ、次の休日にデートをしようか」


 カイザー様は、嬉しそうにデートの約束をしてくれた。デートのことを、こっちでは逢引って言うのね。『逢引しよう』……何か言いたくないな。


「はい、カイザー様」


 にっこり笑顔で答える。ふふ、初めてのデートよ。


「エミ、その量は少ないんじゃないのか?」


 カイザー様が、私のお皿に入っている料理を見て言う。


「カイザー様、私には、この量で十分です」

「ふむ。余り食べないのだな」


 <ベレン>の時もそうだったけど、ここは食事の量が多すぎて食べきれない。残すのが嫌で頑張って食べるけど、後で苦しくなるのよね~。だから、お願いして少ない量にしてもらいました。


 デートの約束をしたので勉強にも身が入る。


 筆頭執事のハリソンさん。夢の時にいた耳がピンとした犬獣人のおじいちゃんと、メイド長のクロエさんは猫の獣人さん。頼りになるお母さんタイプ。褐色の髪をアップにしていて、私より背が高い。この二人に、午前中だけマナーや文字を教えて貰っています。毎日だと私が大変なので、週に1日休みをもらった。


 本当は、週末の2日間を休みにしたかったけど、この世界は1週間6日しかないのよね~。4日間の半日だけ勉強して、週末の2日を休みに下さい……とは言えなかった。


 この世界の暦は、6日で1週間・5週で1か月・12か月で1年になるそうです。そして、<獣王国>には冬がなくて、他国との便宜上、年明けが春・夏・秋が年末まで、と使い分けている。実際は2シーズンで、『夏』か『夏じゃない季節』。


「アメリアちゃん、デートに着ていく服を一緒に選んで欲しいの」

「エミ様、任せて下さい! カイザー様が喜ぶドレスを選びますよ!」


 えっ、ドレス? そうか、パーカー以外はドレスしかなったわね。


「アメリアちゃん、街に行くから動きやすい服を選んでね」


「エミ様、カイザー・ベネット侯爵の番つがいとして、恥ずかしくない装いをしないとダメですよ」


 あぁ、そういうのも考えないといけないのね。でも、誰も知らないと思うから、普段着のちょっとオシャレな服装で良い気がするけど……持っていなかった。


 アメリアちゃんと一緒に選んだのは、ブルーのプリンセスラインのワンピース。赤やピンクは外に着ていけない。夕食の時だけで許して欲しい。スカートの膨らみを出すパニエは1枚だけ履く。装飾品は1番シンプルなネックレスだけ。これが、アメリアちゃんとの妥協点でした。疲れた……。


 休日の朝、カイザー様と食事をしていると、


「エミ、急ぎの案件が入って来た。すまないが、部屋で待っていてくれないか?」


「はい。カイザー様、待っていますね」


 部屋に戻って、出かける準備をする。アメリアちゃんと選んだ服を着て、軽くお化粧もしてもらった。


「エミ様、楽しみですね」


「うん。楽しみにしていたけど、カイザー様は忙しいのね。私は無理なお願いをしたのかな?」


 おとなしく部屋で待っているけど、なかなかカイザー様が来ない。部屋にある時計を見ると、そろそろ11時になる。この世界にも時計があって、魔石で動いているそうです。こっちは電気の代わりに魔石で動くのね。


「今日は無理なのかな……アメリアちゃん、カイザー様に聞いて来て」

「畏まりました。エミ様、少しお待ちくださいね」


 しばらくして、アメリアちゃんが戻って来た。


 執務室の前で、カイザー様の従者に『今日は忙しいから無理だ』と言われたそうです。せっかく楽しみにしていたのに……。


「エミ様、次の機会がありますよ」

「そうね。アメリアちゃん、カイザー様がダメなら一人で出かけるわ」


 デートをドタキャンされて気分は良くないけど、カイザー様が忙しいのは分かっていたから仕方がない。せっかくの休みだし、<レジナ>の街を観光しよう。


「エミ様、お一人で出かけるなんてダメですよ」

「じゃあ、アメリアちゃんも着替えて付いて来て。私も楽な服に着替えるから」


 デート用に着ていたワンピースを脱いで、トレーナーとスキニーに着替える。


「エミ様?」

「アメリアちゃん、早くしないと置いて行くわよ」

「ま、待ってください。急いで着替えて来ますから!」


 慌てて着替えて来たアメリアちゃんと、執事のハリソンさんの所に行って、事の次第を話した。反対されたけど、カイザー様と街に行くことになっていたから、出かけると言い張った。


「でしたら、エミ様、護衛を付けます。お待ちください」

「ハリソンさん、付けても良いですけど待たないですよ。早く行かないと日が暮れてしまう」


 そう言って、アメリアちゃんを連れて屋敷を後にした。






—————————————————————————————

・あとがき・


読んで頂いてありがとうございます。全4話になります。








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