7話 

カイザー様の黒馬に乗せられて<レジナ>の街に向かった。


「カイザー様、この子には名前がありますか?」


 漆黒の馬のたてがみを撫でながら聞いた。


「うむ。アスワドと言う」

「アスワド……カッコイイ名前ですね」

『ブルルッ!』


 返事をしてくれた? ふふ、私の言葉が解るのかしら?



 街道を進んで行く。


 太陽が真上に登った頃、街道沿いで休憩することになった。


「エミ、休憩するぞ」

「はい。カイザー様」


 カイザー様は、バッグから深皿を出して、アスワドに水を飲ませていた。


 魔法で水が出せるのね……魔法が使えて良いな~。


 リュックから、コンソメを掛けた鶏肉とパンを取り出して、お昼ご飯にする。


「カイザー様、この鶏肉一口いかがですか? 私の世界の味付けになっていますよ」


「エミ、良いのか?」


「どうぞ、カイザー様」


 にっこり笑って、鶏肉を差し出した。


「エミ、旨いな!」

「ふふ、良かったです」


 カイザー様が美味しそうに食べている。機嫌が良くなったみたいね。ふふ、やっぱりカッコイイなぁ……パンを齧りながら眺めていた。




 お昼休憩も終わって、<レジナ>の街を目指して進む。馬でも1~2日は掛かる距離なので、街道沿いには開けた場所が所々にある。


「エミ、ここで野営をする」

「はい」


 焚火をして、カイザー様がスープを作ろうとしたので、私が作ると申し出た。リュックにある食材を使いたい。カイザー様の作るスープがマズイんじゃないの……薄味なだけです。カイザー様に調味料(塩コショウしかなかった)を借りた。


 カイザー様の腰から下げたバッグは、アイテムバッグになっていて、見た目は小さいんだけど荷馬車3台分の容量が入るそうです。そのバッグ、私も欲しいです。


 野菜を良く炒めて、固形スープの素と干し肉も入れてポトフを作ろうかな。簡単だしね。後、パンを薄く切って炙ろうかな。ラスクみたいにサクサクして、食べやすくなるはず。


 私が料理をしている間、カイザー様は、結界石と言う魔物避けの石を周りに置いて、テントを張っていた。


 ポトフが出来上がったので、カイザー様に味見して貰う。


「これは、旨いな……」

「良かった。ふふ」


 食べ始めると、カイザー様の丸い耳がピクピクして可愛い~。


「私の耳が気になるか? エミ……触ってもいいぞ……」


 見ているのがバレてしまった。


「えっ、カイザー様、触っても良いんですか?」

「ああ……いいぞ……」


 カイザー様が、恥ずかしそうに頭の耳を向けて来た。


「ふふ。じゃぁ、少しだけ触らせてもらいますね」


 カイザー様の耳は、モフモフしていて触るとピクピク動く。可愛い~、本物のケモ耳だよ。ふふふ。


「エミ……もう少し、遠慮して触ってくれないか?」


「えっ、痛かったですか? すみません」


 カイザー様の顔を見ると、顔が真っ赤になっている。


「いや、痛くはない。その……獣人の耳を触るのは、求愛行動なのだ……」


 な、なんですって!


「ええっ! 何故、私に触らせたんですか……」


「エミが、触りたそうだったからな……」


 いや、触らせたらダメでしょう。これ、私が求愛しているってこと?


「エミ、おいで」


 カイザー様に、優しく抱き寄せられ耳元で囁かれた。


「私が、エミの耳に触れれば合意したことになるんだ。フフ」


 なっ! ちょっと待って、カイザー様!


「ええ! カイザー様。私、耳を触るのが求愛行動だなんて、知らなかったんです。あの……」


「ああ、分かっている……」


 もしかして、カイザー様にはめられた?


「エミ、困るのだろう?」

「は、はい、困ります……」

「フフ、可愛いな……」


 あれ? 『困る』=『イヤじゃないよ』だったから、言ったらダメじゃない!


「あっ、カイザー様、違うんです! ひゃっ……」


 カイザー様は、耳を齧る様にキスをして私を見つめる。


「エミ、エミの求愛を受け入れたぞ。これで恋人だ。だから……ダンジョンには近寄るな」


 カイザー様と恋人! えっ、ダンジョン?


「カイザー様?」


「エミ、異世界に帰るな。エミは私のつがいなのだよ……私の傍にいてくれ」


 ぐうぅ……胸がキュンとして痛い。これは、口説かれているよね……私もカイザー様のことは好きですよ。でもね、


「カイザー様。私、異世界人ですよ。いつ戻ってしまうか分かりませんよ?」


「帰さない。エミ、好きだ」


 ぐうぅぅ……ドキドキしてきた。つがいは分からないけど、顔が火照ってきたのが分かる。嬉しい、両想いだけど……このままカイザー様の胸に飛び込んで良いのかな? 帰らないで、こっちの世界で暮らすってことよね。良く考えないと……。


「エミ、この間の続きをしたいんだが……」

「えっ! んぐぅ……」


 追い打ちをかけるようなカイザー様の言葉に、ビックリして返事をする間もなく口を塞がれた……考えられなくなるじゃない。


「お預けを食らったからな」

「っ!」


 カイザー様は微笑んで、なだめるように優しくキスをする。マッチョなカイザー様の腕から逃れられない。もう……カイザー様、降参です……私も素直になろう。


「カイザー様、付き合ったばかりなのでキスだけですよ!」


「エミ! それでは、傍にいてくれるのだな!」


 嬉しそうなカイザー様の顔を見ると、胸の辺りがポカポカしてきて、何だかもう良いかって思ってしまう。


 カイザー様に、つがいとは何かと聞いたら……2人で1人。魂で結ばれていて、お互いが替えの効かない存在・相手らしい。恥ずかしくて……重い……。


 獣人にとってのつがいは、何よりも優先する相手で爵位や階級も関係ないらしい。獣人同士でも出会える確率が低くて、カイザー様と私みたいに異種族だったりすると、もっと出会える確率が下がるそうです。





 その後、私はカイザー様のつがいとして屋敷に迎えられた。屋敷の使用人さん達に、こちらのことを色々教えて貰いながら過ごしています。



 私の『待ち人』は、カイザー様だったんだと思う。導く人で、運命もかえてしまう恋人。縁結びの神様、ありがとうございます。







———————————————————————————


あとがき


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