6話

 ギルドの帰り、ルカと昨日の屋台で串焼きを食べた。もちろん、安い方のウサギ肉。これ、癖がなくてあっさりしているから、鶏肉と言われて出されても分からないと思う。


「ルカ、昨日もオーク串を食べていたよね。毎日食べても美味しいの?」

「うん、旨いよ。エミ、一口食べてみる?」


 ルカが、味見しろと串を差し出してくるので、好意に甘えて串にさしている肉を一つ交換した。


「ルカ! オーク肉、美味しいね~」

「ふふ。だろ?」


 う~ん、オーク肉……脂身に甘みがあって、柔らかいイベリコ豚みたい。味を知ってしまうと、また食べたくなるよ。


 オーク串が食べられるように頑張ると言うと、ルカはケラケラと無邪気に笑う。



 宿に行って、前金を支払う。そして、今日は井戸で髪を洗ったんだけど、タオルがなくて……パジャマの上をタオル代わりに巻き付けた。お風呂にも入りたいなぁ~。高い宿屋に泊まればお風呂があるそうだけど、一泊銀貨5枚以上するそう……今の私には、余裕が無いから我慢する。



 翌朝、やっぱり戻れなかった。そして、腰が痛い……今回は、夢で来たんじゃないから戻れないのかな。昨日、ダンジョンもダメだったし。


 朝食で、ルカを待たせないように頑張って食べた。そして、ギルドに向かいながら今日の予定を話す。


「エミは、今日も薬草集めか?」


「うん。今日も8セット目標で頑張るわ。そうだ、ルカ、いつもお昼は何を食べているの?」


「干し肉とパンだよ。安いからエミでも買えるよ」


「ルカ、それを買いに行きたい!」


 先にギルドで依頼を受けてから、ルカに市場へ連れて行って貰った。依頼は早い者勝ちなので、後からだと良い依頼が残ってないそうです。なるほどね~。


 パンは1つ銅貨1枚で、干し肉は紙袋で銅貨5枚だった。紙袋に5~6個位入っていて、私に優しい値段だわ。



 買い物が終わって、門に向かう途中で鶏肉のことを思い出した。


「そうだ。ルカ、昨日焼いてもらった鶏肉、お昼に食べて」


 リュックから、焼いて葉っぱに包んだ鶏肉を出し、固形スープの素を砕いて振りかけて、半分ルカに渡した。


「いいの? エミ、ありがとう」

「うん。ルカにはお世話になっているしね~」


 コンソメ味だから、美味しいと思うよ。ふふ。


 今日は、夕方まで別々に行動することになった。日が傾いたら、ルカが出て来なくても、先に街に戻るように言われた。依頼の素材を集めるまで、ダンジョンから出て来ないこともあるそうです。


「エミ、オレが遅かったら先に戻っていいから」

「了解~。ルカ、気をつけてね」


 冒険者カードを見せて、門を出る時、熊の警備兵さんに声を掛けられた。


「お前ら、日が暮れる前に戻って来るんだぞ」

「おう!」

「はい、ありがとうございます」


 にっこり答える。知り合いが増えるのも嬉しいかも。


 門を出て、ルカと森に向かって歩いていると、



『ブルルッ! ヒヒ――ン!』


 馬の鳴き声が聞こえた。


 振り向くと、騎馬隊が門から出て来て、<レジナ>方向に出発したみたいだった。その内の一頭が、こっちに駆けて来た。


「エミ、ベネット侯爵だ。道を開けよう、下がって」

「うん、分かった」


 綺麗な黒い馬ね……あれ? もしかして、カイザー様?


「エミ!」

『ブルルッ!』


 黒い馬に乗って近づいて来たのは、カイザー様だった。そう言えば……カイザー様は侯爵家の当主だって……聞いたなぁ。


「カイザー様、何故ここに? <レジナ>にいるんじゃ?」

「エミ、帰って来たのか! エミこそ、何故、こんな所にいるのだ?」


 馬から降りて来たカイザー様に、強く抱きしめられた。


 ぐふっ、ぐるしぃ……。筋肉ムキムキで……ろっ骨が折れそうよ。知り合いでいるんだから、彼氏にハグされて、ろっ骨が折れた女の子……。


「カイザー様、ぐっ、苦しい……放して下さい」

「あっ、すまない」


 カイザー様は、力を緩めてくれた。はあ……苦しかった。


「エミ……ベネット侯爵の知り合いだったのか?」

「うん……」


 隣でルカがビックリしているじゃない。


「カイザー様、私、ダンジョンの近くに飛ばされて来たんです。それで、ルカに助けて貰ったんですよ」


「何だと、ダンジョンに?今回は寝ている時に来たんじゃないのか?だから、靴を履いているのか」


 あっ、そうです……今回は、靴を履いていますよ。


 カイザー様は、数日前から領地の<ベレン>に視察に来ていて、今から<レジナ>に戻る所だったそうです。門を出た所で、カイザー様の黒馬が私を見つけていなないたんだって。他の騎士さんを先に<レジナ>に向かわせて、カイザー様は、こっちに黒馬を走らせて来たそうです。


「エミ、なぜ森に向かっているのだ?」


「それは……お金が無いので冒険者になったんです。依頼を受けて、薬草を採りに行くところなんですよ。それに、ダンジョンの周りをウロウロしたら、向こうの世界に帰れるかもしれないですしね」


 カイザー様に、にっこりと答える。


「……そうか。ルカと言ったな、エミが世話になった礼を言う」


 カイザー様は、まだ私を放してくれない。それに、ルカに掛ける言葉がまるで私の保護者みたいですよ。


 ルカが、キョトンとして私達の会話を聞いている。あぁ、夢とかカイザー様のことは話してなかったから、意味が分からない所があるよね。


 そして、カイザー様は小袋から金色の金貨? みたいなコインを数枚ルカに渡した。


「えっ! ベネット侯爵……」

「ルカ、私の気持ちだ。受け取ってくれ」


 カイザー様が強く言うので、ルカは渋々コインを受け取った。


「エミ、帰るぞ」


 えっと、カイザー様のお屋敷に? ダンジョンに入れなくなるじゃない。それに、ついて行くとマズイよね……イロイロと。ギルドの依頼も受けているし、達成しないとペナルティがあるよね?


「あの、カイザー様……私、ギルドで薬草採りの依頼を受けたんです。それに、ダンジョンに入ったら戻れるかも知れませんし、ここで何とかやっていますから」


「エミ、あちらの世界に戻りたいのか……」


「はい。戻りたいです」


 やんわりとお断りしたのが伝わりました? カイザー様、そんな悲しそうな顔をしないで下さい。私が悪いみたいじゃないですか……。


「エミ、屋敷に忘れ物があるぞ……」

「あっ、パジャマ……」


 そうだ、カイザー様のお屋敷で着替えたんだった。あのお気に入りのパジャマは、返して欲しい。



 う~ん、今からダンジョンに入って帰れなかったら、カイザー様の屋敷にパジャマを取りに行くことにした。


 カイザー様にも手伝って貰って、薬草を採り終えてからダンジョンの入口に向かった。


「エミ、昨日も無理だったから、今日もたぶん……」


「何、昨日も試したのか! エミ、異世界から来た者は帰れないと聞くぞ」


「カイザー様、ルカにもそう言われました。だけど、試してみたいじゃないですか」


 今なら、店長に謝って許してもらえそうだし、お風呂にも入りたい。


 二人が見守る中、ダンジョンに入ったけど何も起きない。ルカの言う通り帰れないのか……カイザー様は嬉しそうですね。しかたないな~、パジャマを取りに行こうかな。


「カイザー様、ルカ、手伝って頂いてありがとうございました」


 二人にお礼を言って、ルカとはここで別れることになった。借りていたナイフを返そうとしたら、


「エミ、それはあげるよ。カイザー様に小遣いもらったからね。エミ、またね!」


「良いの? ルカ、ありがとう。本当に助かったわ、またね!」


 笑顔で手を振ると、ムスっとしたカイザー様に急かすように言われた。


「エミ、行くぞ……」

「はい、カイザー様」


 カイザー様、何か機嫌悪いですね……。


 ギルドに行き、依頼の薬草を換金した。そして、カイザー様の馬に乗せられて<レジナ>の街に向かった。

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