5話 

 ルカが泊っている宿は、年配の羊の獣人夫婦が経営しているそうです。


「おばさん、客を1人連れて来たよ」


「ルカ、ありがとうね。人間のお客さんかい、珍しいね~」


 ルカに、宿代は前払いするのだと教えて貰い、先に銀貨2枚を支払った。


「お世話になります」


「あいよ、部屋はルカの隣が空いているから、そこを使っておくれ。これがカギだよ。朝食は、1階の食堂で6時から9時の間だからね。それを過ぎると無いよ」

「はい、分かりました」


 日本とは色々と違う……


 宿の部屋は簡素な作りで、小さな窓があって机とイス、木のベッドだけだった。木のベッドは、板の上にワラが敷いてあって、木綿のようなシーツが被せてあるだけ。明日の朝、あちこちが痛くなっていそう……


 お風呂はなかった。洗面所もなくて、机に桶が置いてあって、自分で井戸に水を汲みに行くシステムらしい。水は大切にしなさいってことね。身体を拭きたいから水を汲みに行った。


 部屋で身体を拭いて、桶の水を入れ替えに行った。もしかして、井戸の水が飲み水なのかな?あっ、飲み水の代わりに、シチューを作るのに買った牛乳を飲んでしまおう。傷んでしまうからね。


 それと、リュックにあるものを確認する。パジャマ・シャンプー・リンス・化粧品・サンドイッチ(食パン、ハム、チーズ、トマト)とシチュー(鶏肉・牛乳・固形スープ・人参・玉ねぎ・じゃがいも)の材料。傷む物は、早めに食べてしまわないとね。


 そろそろ寝ようかな。起きたら、自分の部屋に戻っていれば良いんだけど……。


 何かあった時、すぐに逃げられるようにリュックを枕にして、靴も履いたまま寝ることにした。もう、裸足で歩くのはイヤだしね。ファ~、眠い。





 翌朝、目が覚めると宿のベッドだった。戻れなかった……。


 起き上がると、あちこちが痛い……。


 身支度をして荷物を持ち、1階にある食堂に下りて行った。食堂では、ルカが、もう朝食を食べていた。


「ルカ、おはよう~」

「エミ、おはよう」


 ルカの隣に座って食べているのを覗くと、スープと堅そうな丸いパンだった。すぐに、宿のおばさんがスープとパンを持って来てくれた。


「おはよう、朝食だよ。パンは、1個おかわり出来るからね」

「おはようございます。はい、ありがとうございます」


 パンをちぎってスープに浸してから食べる。上品に食べている気がする……硬くてあごが疲れたのよ~。出されたものは、頑張って食べる。例え、時間が掛かっても……。


「エミ、食べるのが遅いね」

「あぁ、ごめんね。ルカを待たせてしまったね」


 残さずに食べたことを褒めて欲しいんだけどな~。次は、はじめからスープに浮かべて食べよう。



 今日もギルドに行って薬草の依頼を受けた。ルカはダンジョンで素材集め。門に向かうと、<レジナ>行の乗合馬車が出発する所だった。


「エミ、あの馬車が<レジナ>行で片道銀貨5枚だよ」

「良い値段するのね~。ルカ、当分は行かないと思う」


 あっちの世界に帰るには、ダンジョンの近くにいた方が良いと思うのよね。



 ルカと、門を出て森に向かう。


「昨日、エミから貰ったパンは凄く旨かったな~」

「まだ残っているから、お昼にでも食べる?」

「えっ! 良いのか?」

「うん。早く食べてしまわないと、カビが生えちゃうしね」


 ダンジョンの入口まで一緒に行き、お昼にここで待ち合わせることになった。


「エミ、スライムがいたら昨日貸したナイフで倒すと良いよ。もし狼が出たら門まで走って逃げろよ」


「分かった。ルカ、お昼にね」


 ルカと別れた後、ダンジョンに入ってみようかと思ったけど止めた。もし向こうに帰れたら、ルカに何も言っていないから心配するよね……お昼に、全部話しておこう。私は、急にいなくなるかも知れないってね。



 黙々と薬草を集める。お昼までに一人で4セット集められた。これで、今夜も宿に泊まれる。そろそろ太陽が真上になってきたので、ダンジョンの近くで薬草を探していたら、ルカが出て来た。


「エミ! お待たせ」

「ルカ、お昼にしよう~、話したいことがあるの」


 お皿代わりに大きな葉っぱを使う。残っている食パンで、サンドイッチを作った。サンドイッチ用に買っていた具材(ハム・チーズ・トマト)を全部使う。もう危ないかもしれないのでハムとチーズを少し齧る……変な味も臭いもしないからセーフ。


「ルカ出来たよ~。はい、どうぞ」

「うわ~! 旨そうだ。いただきます」

「はい。ルカ、食べながら聞いてね」


 ルカに自分の状況を話した。違う世界からダンジョンの側に飛ばされて来たこと、もしかしたら、帰れるかも知れないこと。いなくなっても心配しないでねと伝えておいた。


「エミ、違う世界から来た人は帰れないから、国に保護を求めるって聞いたよ。もぐもぐ……」

「えっ、帰れないの?」


 他にも来た人がいるんだ。帰れないのは困るなぁ……あ~、今日は無断欠勤だ。メール出来るかな? 後で試してみよう。店長すみません。


「エミ、こんなに旨いのは初めて食べたよ! ご馳走様」

「ふふ、口に合って良かったわ」


 ルカが使ったナイフや食器を魔法で洗ってくれた。


「ルカ! 凄いわね~、魔法が使えるんだ」


 ルカが言うには、この世界に住む人は、みんな生活魔法が使えるそうです。初期の4属性魔法で、火をつけたり、風を吹かせたり、水を出したり、土でかまどをつくったり。ただ、相性があって、全部使えない人もいるんだって。魔法があることはカイザー様に聞いたけど、みんな使えるなんて良いな~。


 ルカは4属性使えるそうだから、火魔法を使って鶏肉に火を入れておきたい。そしたら、明日でも食べられるしね。


「良いよ。エミ、焚火をすればいいんだね」

「うん。お願いします」


 枯れ木を集めて、ルカは焚火を作ってくれた。鶏肉を串焼きにして、葉っぱに包んでおいた。




 ルカは昼からもダンジョンに入るそうなので、途中まで一緒に入ることにした。


「ルカ、あっちに戻れたらお礼を言えないから、先に言っておくね。ルカ、本当にありがとうございました。凄く助かったわ」


 ルカに向かって、笑顔で頭を下げた。ルカは恥ずかしそうに、


「どういたしまして、エミ」


 ダンジョンに入ってウロウロしたけど、何も起こらない……昨日と同じよ、残念。


「エミ、やっぱり帰れないみたいだね」

「そうみたい……ルカ、薬草採りに行くわね」


 帰れないのかぁ。


「うん。エミ、後で声を掛けるよ」


 ルカと別れて、ダンジョンの外に出た。


 店長にメールを送ったけどエラーになる。電話もネットもダメ。電池はあるから写真は撮れる……このままだと、お店をクビになるなぁ。しかたない、今は薬草採りを頑張ろう。


 スライムは、倒して解体するのが面倒なのでスルー。攻撃して来るヤツだけを倒すけど、なかなか魔石を出してくれない。3~4匹で1個……ケチだ。


 太陽が傾いた頃、ルカに声を掛けられた。


「エミ~、そろそろ帰るよ」

「あっ、ルカ!了解~」


 ふふふ、今日は8セットと魔石2個を換金してもらって、銀貨4枚と銅貨4枚にもなった。ルカにも褒めてもらってご機嫌です。







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