4話
「あっ、ごめんね。私、迷子になったみたいで……」
「迷子? 誰かとはぐれたのか?」
困ったな、どうやったら帰れるんだろう……獣人の男の子が不思議そうに私を見ている。
「うん、そんな感じかな。私はエミ。あの~、<レジナ>の街は、どっちに行けば良いか知っているかな?」
「俺はルカ、冒険者だ。<レジナ>には、ここから見える街から、乗り合い馬車が出ているよ。魔物を倒せるなら歩いて2~3日で行ける。街で食料を準備して行けば良いよ」
冒険者! さすが、異世界ね。魔物は倒せないから行くなら馬車ね。
でも、今回は神隠し? 夢で来たんじゃないから、カイザー様の屋敷に行っても帰れないだろうし、帰りたい……さっきはダメだったけど、ダンジョンの周りをウロウロしたら帰れるかな?
食材は、少しリュックにあるけど、泊る所を何とかしないとね。この世界のお金を持っていないから稼がないと。
「ルカさん、教えてくれてありがとう。それと、私でも稼げる仕事ってあるかな?」
「エミ、ルカでいいよ。仕事? 手っ取り早いのは、冒険者になって薬草採りかな?」
冒険者……薬草取りなら出来そうね。
「冒険者ね、分かった。ルカ、ありがとう」
ルカが、簡単に登録できると教えてくれた。そして、ついでだと冒険者ギルドまで案内をしてくれることになった。
10分ほど歩いて、街の門にいる獣顔の警備兵さんに、ルカに言われた通り『冒険者になりに来ました』と言ったら、ジロジロ見られたけど『人間は、変な服を着るんだな。後で、冒険者カードを見せに来い』と言われた。
ルカが一緒にいたからかな?簡単に通してくれた。変な服って言われても……今はお金がないからこれで我慢よ。
「エミ、行くよ」
「ルカ、待って」
門から入って直ぐの2階建ての建物が冒険者ギルドだった。中に入って、受付で冒険者の登録を申し出た。
「あの、冒険者になりたいんですけど……」
「はい。こちらの用紙に記入お願いします」
用紙を見ると、うわっ、読める……フリガナが浮かぶように付いてあって、何が書いてあるのか読めるけど、文字が分からないから書けない……
受付のお姉さんに、文字が書けないと伝えると、にっこりと笑顔で答えてくれた。
「分かりました。名前と年齢を教えてください」
「はい。エミ、26歳です」
受付のお姉さんが、手早く冒険者カードを作ってくれた。
「こちらに血を一滴垂らして下さい」
「はい」
言われた通り、鉄の冒険者カードに血を垂らすと、カードが少し光った。
「こちらが、エミ様のカードになります。再発行には手数料が掛かりますのでご注意下さい」
「はい、ありがとうございます」
冒険者カードと説明書も一緒に渡してくれて、読めないだろうと簡単に説明してくれた。読めるけど、知らない世界で優しくされると嬉しいな。
「説明してくれて、ありがとうございます」
初めは、ランクFからスタートで、依頼をこなすとランクがE・Dと上がって行くそうです。冒険者カードを受け取って、掲示板を見に行く。
「エミ、登録出来たか?」
「出来たわ。ルカ、ありがとう」
ルカの冒険者カードは銅色で、ランクDの中堅の冒険者だそうです。ランクよって色分けされているんだって。
ルカに、依頼書の見方や受け方を教えて貰い、早速、薬草の依頼を受けた。2階に行けば、魔物やアイテムの資料があって、調べることが出来るそうです。
「エミ、早速、薬草を採りに行くのか?」
「うん。今日の宿代を稼がないとね」
「そうか、仕方ないな~。今日だけ手伝ってやるよ」
「えっ、助かる~! ルカ、今度お礼するからね」
年下を頼るのは申し訳ないけど、ルカの優しさも嬉しい。
ギルドから出て、ルカが泊っている宿屋を教えて貰った。1泊朝食付で銀貨2枚だそうです。物価が分からないけど、ルカみたいな子どもが泊っているんだから、安いんだと思う。取りあえず、今日、稼がないといけない金額だから頑張ろう。
その後、門に向かい、獣顔の警備兵さんに冒険者カードを見せた。よく見たら丸耳……、熊の獣人さんかな?
「登録して来たか。今後、街に出入りする時は見せるようにな」
「はい。分かりました」
冒険者カードを見せたら無料で出入り出来て、持っていないと入門税が銀貨1いるらしい。ルカに出会わなかったら、街に入ることも出来なかったね。
枚門から出て、森へ向かって歩き始めた。
「エミ、薬草は草むらを探すと見つかるけど、10本ずつじゃないと買い取ってくれないんだ。それと、森の奥には行かないようにね」
「ルカ、分かったわ。10本ずつね」
森に入って、ルカが薬草の見分け方を教えてくれた。葉っぱの先が丸く、ヨモギの葉を大きくした感じ、これなら分かりやすいわ。
依頼内容は、薬草1セット(10本)で銅貨5枚。銅貨10枚で銀貨1枚だって、4セットは集めないとね。頑張ろう!
草むらに、ぷにぷにした薄い黄緑のサッカーボール位の大きさのモノがズルズルっと動いていた。
「エミ、スライムを狩って魔石が出たら、1つ銅貨2枚で買い取ってくれるよ」
「あれがスライム……」
「この予備のナイフを貸してあげるから、試しに倒してみたら? 水攻撃してくるけど、そんなに痛くないし避けられるよ」
ルカにスライムの倒し方を教えてもらったけど、魔石を出さなかった。スライムを何匹が倒したけど、魔石は1個しか出なかった。これは効率が悪いなぁ……薬草を頑張って探した。
日が暮れると門が閉まるそうで、早めに切り上げて街に戻った。
ギルドに行き、薬草を換金した。1セット銅貨5枚の報酬。スライムが出した魔石は銅貨2枚。初めての依頼で得たお金は、薬草6セットと魔石1個で、銀貨3枚と銅貨2枚だった。銅貨10枚で銀貨1枚だとルカに教えて貰った。ルカが手伝ってくれたので宿代は稼げた。
「ルカ、これで宿屋に泊まれる! ありがとう」
「エミ、頑張ったな! じゃぁ、屋台に寄ってから宿へ行こう」
宿の料理は高いらしくて、途中の屋台で食べて行くんだって。私は、ケチって1番安い銅貨3枚のウサギ肉の串焼きにした。2本だと多そうなので1本にした。ルカは銅貨5枚のオーク肉の串焼きを買っていた。
「ルカ、今日のお礼に私の国のパンをあげるわ。串焼き肉を挟んで食べてみて」
リュックから、サンドイッチを作る為に買った、8枚切りの食パンを1枚ルカに渡した。もう1枚出して、串焼き肉を挟んで見せる。
「ルカ、こうやって食べるのよ。もぐもぐ……」
「これがパン? 柔らかいね」
ルカは串焼きを挟んだパンを一口食べると、目を輝かせた。
「エミ、凄く旨いよ! もぐもぐ……」
「ふふ。ルカ、今日は助かったわ、ありがとね」
食べ終わって宿に向かった。
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