子供の頃、夏の怪奇番組か何かを見て、幽霊を怖がっていたら、親だったか祖父母だったかが言いました。
「幽霊なんかおらんし、何もしやせん。人間が一番怖い」
この小品群が、決して作り話ではなく、全て実話に基づいているということに、慄然とします。
展開される文体においては、ことさらに恐怖を煽るような過剰な修飾語はむしろ削ぎ落とされ、簡潔明瞭に、淡々とした筆致で、物語が紡がれています。そのことで、却って人間というものの不可解さ、底知れぬ怖ろしさが客観的に際立ち、何ともうそ寒い読後感をもたらします。
ほら、ふり向いてごらんなさい。あなたのそばにも……
昔見かけたヒトで、バスに乗ってきて席に座ると、突然笑い出してはポカリスエットを一気飲みするという女性がいました。1本飲み終えると間髪入れずにカバンの中からポカリスエットを取り出してまた笑い出し、一気飲みするというのを続けていました。笑い声も結構大きい上に、ポカリを5〜6本くらい次から次にごくごくと音を立てて飲んでいるサマは異様でした。
また、ある電車に乗ったときは、デニムのホットパンツと赤いボーダーシャツをピチピチに着こなす色白の男性が、「日本一の美少年」というたすきを肩にかけて、ラジカセといくつもの紙袋を持って徘徊し、若い女性客の隣に座っていくという光景を目の当たりにしました。
怖かったです。
あの時に感じた、奇特な人がかもしだす一種独特の嫌悪感や異様さが、この物語(実録?)には再現されていて、読んでいて何度も背筋を冷やされました。
昔、ばあちゃんがお化け番組を見て怖がる僕に言っていました。
「バケモノよりバカモノの方が怖いんだぞ」と。
ここにはそんな「人怖」な方々のゾッとする話が集まっています。