星に揺蕩



海とか、夏祭りとか、そんな灼熱をワイドショーの向こうに傍観していた。


サイドテーブルに乗せた炭酸水の泡が弾けているのが熱帯夜に似ている。






息するってことは主観ってことだ。


本当は客観してたい。

面倒な立場に居たくない。





「ねえ」

「ン?」




こうやって口火を切る時いつもワンクッション挟んでしまうのは此奴の癖だ。単刀直入に切り込まないから酷薄だと思う。




「天の川はさ」

「ン」

「雨だと越えられないのかな」

「知らねえよ」

「越えられないんなら」

「…」

「掴みたい」

「はァ?」




意味不明の妄言を隣でどんな顔して聞けばいいんだよって、そう切り返したい気持ちを飲み込む代わりに空き缶を投げた。ゴミ箱を掠めて鈍い音を鳴らし、コンクリートの彼方へと消えていくそれを見守った。




掴みたい、その意味は何となく俺にもわかる。川みたいに密集した星の集合体を掌で手繰り寄せて、皺をつくるだけ。



サテンやシルクなんかじゃ無いから大したシワなんて所詮つくわけない。だから愛想を全て丸め込む。あの星とともに手繰り寄せる。




見もしない夢を放り投げるよりも、あの一等星に爆ぜた世界を傍観するほうが容易だと知っていた。




シュレッダーにかけた文字を修復するみたいに言葉を探すのは、出来上がることの無いまま放置され棄てることさえ忘れられたパズルみたいに不確かである。



日付が変わるその瞬間にも煌めく街を見下ろして、雲間を這う風が捲る袖をうざったそうに払った。





「今日だけ叶えたいって思うと」

「…」

「何にも適わない気がする」

「は、」

「敵わないとか馬鹿みたいでしょ、

だから叶える代わりに適う星を遮るの」





願いより約束のほうが不可思議だとおもう。


少し尖らせてから下唇を噛む癖、長く濃い睫毛を強かに他揺らせる癖、その馬鹿みたいな癖が未来永劫消えなければいい。


雨も降ってないくせに、星ひと粒として見えなかった。清澄なグレーに浮かぶ月と煌めきがこぼれるビルの夜景が啼いていた。






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東京の星は燃え尽きない 永黎 星雫々 @hoshinoshizuku

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