MELT
表参道は細くとも、いつも満ち足りている。
釣り合わぬ路頭の雑草、立ち並ぶ高級ショップ、
長く続く先に見える青山へと届く余裕。
貴方もそういうところがある。
充足感を飼い慣らしながら枯渇を晒すような人である。
たった100円の棒付きアイスに赤い舌を這わせながら歩く表参道の街並みは綺麗だと言う。
外気は冷たく乾き、芯から凍える体をソーダが針のように巡る。高価なドルチェを持ってそ歩くよりも、コンビニアイスを持った街が美しくなるのは貴方がそんな矛盾を平坦にみせているからだと、漠然とそう思う。
程なく施錠しても私はこの程度しか与えられなくて、5回目を再生するのは憚られた。
欲しかったのは未来じゃない。今この瞬間だけ。刹那が刹那を嵌め込んで、その先にいつの間にか過去が出来るだけ。未来の約束なんていらない。
青い鳥のアイコンをタップしたら貴方だけが現れた。鍵をかけた再生権利は私しか持っていなければいい、なんて、そんな馬鹿馬鹿しい発想が赦されるのは絶対に罪だ。
隣で笑うのが、それがこのたった4回の再生を私が落とした罰なのだと。
百戦錬磨の魔法は坂道の下の方で落ちてしまった。ネットフリマで売り捌くより、落としてしまった方がエモーショナルに見えるなんてなんだかずる賢い。
揺れる黒髪に指先を滑らせたら冷たい風が吹いた。今夜は月が見えない夜なのだ。
雨も降らないのに、雲隠れたのは私か、貴方か、微熱程度しか持てない私を溶かすのは貴方だけ。
愛をあからさまに欲しがるから、あけすけな愛しさが廉価に落ちるのだ。
愛したついでに欲望を噛み潰すことにした。
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