メンソール

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風が冷たかった。薫風が突き抜ける。







足元がふらつく屋上の細い足場を、一歩、二歩。

ゆらゆら揺れる軸に浮ついて進んだ。

手摺がはなせなかった。






乗り出してみると、辺り一面数ミリのモザイクアート。この小さなビー玉みたいな飴玉なんかよりも粒はちいさくて、飴を口に放ると大嫌いな味がした。




昼休み前の授業で生徒の気を惹こうと必死な古典の教師が配ったハッカアメ。


コドモの気を惹く切り札がこれってバカだなと思う。だが、素直にこれを口に放る自分はもっとバカ。矛盾の典型とはこういうこと。




目を閉じてもっとゆっくり柵から乗り出す。


見えなければ何も怖くはない。


この世には渇望しているが、

この世にしか見据えられない

ものがまだあるって知ってるから

別に終わらせようだなんて思ってない。



瞳をもう一度ギュッと閉じた時、

後ろから声がした。







「おい68点」







驚いて目を開けたら直下には奈落で、怖くなって反り返ったら尻もちをついた。滑稽な自らが恥晒しそのもので声の主を睨んだら、掌を出された。そもそも68点ってなんだよ。






「さっき採点したお前の期末の点数」






この春新任で来た英語の教師。新卒だときいた。生徒だと校則余裕でアウトのヘアセットに、一応履いた黒の革靴。無駄に整った容姿のせいで皆騙されてる。コイツに。


懲りずにもう一度睨んだら、「腹減った」と一言そう懲りずに返された。こんな点数を取るのは英語だけだし、教え方が悪いんじゃないか。






「口になんか入れてたじゃん」

「…さっき古典で貰った」

「あァ」







あの人俺ニガテ、そう悪口を呟いてスマホに視線を戻した。


飴は諦めたようだった。






「なんで教師になったの?」

「ン?」

「向いてないのに」

「ショージキすぎんだろ」

「だって、」

「消去法」

「うわ」

「好きなモノとかないし。誰かのこと導きたいとかさらさら思ってない」

「サイッテー」

「だから別にお前のこともどうでもいい」

「…オトナにはわかんないよ」

「お前だってリボルバー2回ぐらい回せばすぐこっち側だよ」

「は、」

「明日テスト、サボんなよ」






そう言い残し、肩にポンと重みをかけて行ってしまった。


「どいつもこいつも矛盾ばっか」


煙草とマリンの香水の匂いが肩あたりから風に乗って香った。ハッカの残りを奥歯で噛んだら喉の奥で突き刺すのが苦しかった。






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