私の義兄の恋愛は、知略に満ち過ぎていて好きに成らざるを得ない
みくりや
第1話
小学三年の時、私、
彼は
父の恩師にあたる遠縁の親戚筋の人とその奥様が事故によって無くなり、近親者に引き取り手がいないので、母がやや強引に未成年後見人として引き取ったと言う。当時ではそれがどんなことか全く理解できなかった。
母が必要以上に兄になろう人にべたべたしていたのは、母を取られた気がしてとても嫌な気分になった。
「お母さんはあたしだけのお母さんだもん! あんたがお母さんって呼ばないで!」
「……こらっ! 芽衣、お兄ちゃんになんてこと言うの?」
「こんなやつ、お兄ちゃんじゃない!」
今思えば最悪な暴言だ。両親を亡くした身寄りのない兄に心無いことを言ってしまった。
だというのにまだ9歳の彼は少し悲しい顔をしただけで、私を怖がらせないように必死で笑顔を取り繕っていた。それがいまだに心に焼き付いている。
それに酷い言葉を浴びせる私を本当の妹の様に扱ってくれていた。
「……ぐす」
「……寂しいのか? 一緒に遊ぼうよ」
「わぁ……可愛い」
「それ欲しいのか? 買ってあげる」
「お兄ちゃん。ハンバーグ食べたい」
「お、じゃあ今晩はハンバーグだ」
「べ、勉強教えて?」
「あぁ。いいぞ。こう見えて俺、そこそこ成績がいいからな」
「寂しいから、一緒に寝よ?」
「あぁ、お父さんとお母さんに内緒だぞ?」
ただ気持ちの面だけで支えてくれたわけじゃなく、忙しい両親の代わりに私の面倒は全てみてくれたのだ。その上学業も疎かにしていない。お父さんとお母さんも彼を自慢の息子だと褒めていた。
でも私は知っている。
はじめは家事も下手糞で、よくフライパンを焦がしていたし、皿も割っていた。それに勉強もあまり出来る方ではなかった。でも兄は必死で出来るように、両親にとっていい息子であるように努力していたことを。
ある時、私は我儘を言った。
ずっと休みが無い両親は休日でもどこへも遊びに連れて行ってくれないことへの不満を兄にぶつけた。すると兄はこう言った。
「じゃあ、俺と行こう。どこへ行きたい?」
私は無邪気に歓喜した。そして無邪気に無茶を言った。その時丁度テレビのコマーシャルでながれていたネズミランドだ。子供が行ける距離ではないし、お金もかかる。単なる当てつけのつもりだった。
だと言うのに、兄は文句ひとつ言わずに連れて行ってくれたのだ。お金だって移動費を含めれば数万はかかるのに。
その日はものすごく楽しかった。
初めてで、美味しいものも食べてたくさん乗り物にも乗った。ムッキーの耳のカチューシャを付けると、兄は「かわいい」と大絶賛してくれたのがすごくうれしい。ずっと手を繋いでくれていたことが何よりうれしい。
怖い落ちる系の乗り物にわからずに乗った時には、手をぎゅっと握って肩を抱いてくれた。私はその時に自分の気持ちに確信を持ったのだ。
(あぁ……こんなの好きにならないほうがおかしいよ……大好き……)
しかしそんな幸せもつかの間。帰宅すると家に警察が来ていた。出る時には書置きをのこしていったのに、慌てた両親は捜索願を出したのだ。
「俺が無理やり連れまわしました。申し訳ありません」
――え? ちが……私が行きたいっていったから……。
なぜこんな事態になったのか、この時は単純に私たち二人を心配した両親の気が動転しただけだと思っていた。
だから必死で違うと訴えたけれど、誰も信じてくれはしなかった。
中学に入ると、周囲は「だれが好き」「もうした?」などと恋バナをする機会が増えた。けれどその頃にはすでに異性=兄としか認識できずにいたのだから、同じクラスの男子の話題は
「サッカー部部長のイケメン先輩。芽衣ちゃんを狙ってるらしいよ?」
「興味ないし」
「もったいないぃ! 芽衣ちゃん、男子の一番人気なのに」
「お兄ちゃんが一番カッコいいに決まってるし」
「出た! 芽衣ちゃんのお兄ちゃん自慢」
ただ性的な知識がどんどんと舞い込むと、興味が湧いた。もし兄とそういう行為に至ったら、どんなに幸せだろうと。
その日友達から聞いて初めて知った自慰行為を試してみると、自然と兄の事が頭に浮かび、人生で初めての快感を得たのだ。それは想いが強くなれば強くなるほど、快感が強烈になっていった。
劣情は日々繰り返され、比例して想いが強くなっていった。
台風が上陸したある日の夜。
外ではゴロゴロと雷が鳴っている。
「お兄ちゃん。今日は一緒に寝て良い?」
ただの口実だ。私は雷に恐れるような
「怖いの? おいで……」
一瞬どきりとした。
けれどベッドに私を寝かせると、一緒に寝ることなく横に座って手を握ってくれた。でもそれだけだ。一緒に寝ることを許容してくれない。
「寝るまで手を握っているから……」
だめ。
気持ちはもう抑えられない。
離してほしくない。
このままずっと一緒に居たい。
好き。
大好き。
手から伝わる兄と私の鼓動のリズムが一致すると、身体が熱くなり蕩けていく。
「お兄ちゃん……」
自然と甘ったるい声がでた。包み込むように握られていた手を、するりと組み替える。指を絡め、反対の手を後頭部に添えてぐいっと引き寄せる。より密着して相手の心の内側に入り込むように。
もうほんの数センチ先に兄の目がある。見つめ合い、動揺した兄の瞳孔が動くと私の瞳孔もそれを追いかける。
絶対に逃さない。
「め、芽衣? め――」
そして兄の唇を奪う。
「だめ……んむ……だ」
兄が私に対して強引になれないことをいいことに、さらに舌も滑り込ませて、彼との繋がりを求めた。
(やっと……やっと繋がれた)
気持ちが高揚し、満足感と多好感が押し寄せる。
(好き……)
(大好き……)
(……もっと、もっとほしい)
(お兄ちゃん……好き)
もっともっととねだる様に舌を絡めて、徐々に天国にたどり着くような心地に意識を失いかけたその時――
「お前たち、何をっ!」
!!!!!!!
そこには扉を開け、部屋の入口で立っている父がいた。
まさに私は達した瞬間だった。身体が蕩けて上手く動かすことができずに兄にしがみつくことしかできなかった。
――最悪のタイミング。
「離れろ! 龍臣!」
そういって兄を殴りつける父の剣幕はまるで般若の様だ。そんな父を見たのは初めてで怖くなった。
「ごめんなさい。俺が悪いんだ」
「ちが――」
違うって言っても、余韻でうまく言葉にできない。これが初めから決まっていたストーリーの様に、私と兄の心が引き裂かれていった。
これだ。
父に感じていた強い違和感。父にとって家族はお母さんと私だけ。兄は他人なんだと。
その日、母も帰宅し落ち着いたところで家族会議が行われた。
「出て行け……龍臣!」
「そ、そんな! 違う! お兄ちゃんじゃ――」
否定しても父も母も聞いてくれなかった。あの時と一緒だ。母は兄の誠実さを理解していたが、兄妹でキスをした事実がどういう理由でどちらが悪いとしても事を止めることが出来ないと言った。「あなたの事が心配」と言われてしまえば、私は何も言い返すことができない。
それを兄は粛々と受け入れていた。
そして兄はすぐに出て行ってしまった。荷造りに時間がかかるからそこで話す機会があると思っていたが、兄の私物は極端に少なかったそうだ。
「結局……あの子に何にもしてあげられなかったわ……」
母は青ざめて顔を顰めて後悔の言葉を紡ぐ。ただ忙しくてほとんど家にいない両親の代わりに、外食できるほどにお小遣いもあげていたはず。
しかしネズミランドに行ったという騒ぎの後、叱ってお金の出どころを調べたのだそうだ。
すると、兄はこの家に来てからほとんどお小遣いに手を付けていなかったというのだ。
「ネズミランドの費用と、わずかな食費分だけなの。減っていたのが……」
「そんな……遠慮して?」
「むしろ家族と思ってくれなかったじゃないかしら……芽衣、気づいていた? 初めの日以来、お父さんとお母さんを一度も呼んでくれないの。もう来てから五年になるのに……」
「うそ……」
言われてみれば、両親はほとんど家にいないし、家族団らんの時は出来るだけ勉強すると避けていた気がする。その兄の振る舞いに想いたる節があった。
『お母さんはあたしだけのお母さんだもん! あんたがお母さんって呼ばないで!』
『……こらっ! 芽衣、お兄ちゃんになんてこと言うの?』
『こんなやつ、お兄ちゃんじゃない!』
出会ったときに言ってしまった一言。これを頑なに守ろうとしていたんじゃないだろうか。
真意はもうわからない。
「お父さんがすごい剣幕で殴りつけたのでしょ? たぶんそれがお父さんの本音だと思う。私は引き取りたいと強く思って引き取ったけれど、お父さんはすこし嫌な顔をしていたの。でも龍臣は家庭内で家事を全部やってくれるし、団らんに入ってこない距離を取っていたことで、お父さんは許容していたみたい」
「……やっぱり」
これは私にとって答え合わせのようなものだ。もうネズミランドの時から薄々感じていた、父の違和感の正体。
母は珈琲に口をつけ、ふぅと一息吐くと厳しい視線を私に向けてきた。
「お父さんは龍臣が穢したって言ってるけれど、本当は芽衣からキスしたんでしょ?」
「なんでわかったの?」
「……やっぱり、そうなのね」
「……娘にカマかけるなんて、最低」
「ごめんなさい……。でもだとしたら龍臣からこの家にいる権利を奪ったのは貴方よ、芽衣」
言われて自覚した。
そうだ。彼が出る羽目になったのは私が一線を越えたからでしかない。今更後悔しても、もう兄は出て行ってしまった。物理的な大きな溝ができてしまったのだ。
その日は朝まで泣いた。顔をくしゃくしゃにしても構わずに。そして泣き枯れる頃には、私の表情は無くなっていた。
それから何事もなかったように日々を過ごした。ただそれは空虚だ。
兄が作ってくれただし巻き卵はもう食べられない。
掃除洗濯も自分でやらないと。
けれど兄のようには上手くいかず、フライパンどころかキッチンは真っ黒になって、火事騒ぎを何度も起こし、料理を禁止された。
「芽衣ちゃん……お兄さんと喧嘩したの?」
「喧嘩なら良かったんだけど……う……うぅぅ」
中学入学からの友達の千佳ちゃんにはすぐにバレた。
いつもシャキっとしたシャツを着て、毎日奇麗になびかせる髪は他の子とは一線を画すほどに見栄えした。このおかげで大人しい性格の私でも沢山の友人に恵まれたし、中学生活は順風満帆になったのだ。そしてそれは兄がやってくれていることを満面の笑みで自慢していたことは学年中の有名な話。
そんな私が突然無表情になって、ぼさぼさの髪によれよれのシャツで、弁当ではなく選択制の給食に切り替えたのだ。何もないという方が不自然でクラス中どころか学校中の話題にまでなっていた。
千佳ちゃんには正直に話した。相談に乗ってもらいたかったから。
「キ、キス!? ま、まぁお兄さんすっごくカッコいいし、芽衣ちゃんの溺愛っぷりからはありえない話じゃないから置いておくとして……」
「う、うん……」
「それ芽衣も心配だけど、お兄さん……やばいんじゃない?」
「え?」
考えていなかった。今まで完璧なほどに私を世話していた兄ならば自ら生活を自立させるのはすぐにできると思っていたのだ。でも友達に指摘されて気が付いた。
兄だってまだ中学三年生。身体は大きくて、身の回りは大人よりしっかりしているけれど未成年なのだ。くわしくは聞いていないけれど身寄りがない兄が行き着く先といえば児童施設だろうか。
兄はどれだけ嫌な思いをしなければいけないのか。このまま誰にも認められず、休まる場所すら与えられず、ひとりぼっちで死んでいくだけの余生。
それはゆるやかな『死の宣告』だ。
「芽衣!? ちょっと真っ青よ!? 誰か!」
自分がしてしまった事の本当の意味を今更ながら理解した。そしてその衝撃が強すぎて――
気を失った。
その日は早退して、連絡を受けた両親は急遽自宅へ帰ってきていた。そして三人だけの家族会議。
父は何も語ろうとせず、私の具合の心配だけして大丈夫だとわかると寝室へ行ってしまった。
母が兄のその後を教えてくれた。
兄は中学卒業まで施設に入って、そのまま近隣の高校へ進学を決めたそうだ。奨学金制度と学校の寮に住まい、アルバイトで生計を立ててすでに自立しているという。
話を聞いてほっとした。自分の事を諦めていないのだと。
「むしろもっと早くこうすべきだったのかも……」
「何てことを言うの! お母さん!!」
「……龍臣、一人の方が生き生きしていると思わない?」
兄を特に慕っていた母にしては、心の整理がついた顔をしてこちらを見ている。
「ぅ……」
尤もな話。
ここに居た兄は、とにかく優等生。完璧に役目をこなしていた。けれど自分の意思は皆無だった。今はきっかけがあたしとのことだとしても、自らの意志で将来を決めている。
(……あれ? これが目的?)
視界がぐらりと揺れて、すごく嫌な考えが巡る。
(まって……まって、まって)
ここに居た完璧な兄は、今のような自らの意志を手に入れるためだけに作った虚像なのだという仮定だ。
すべてに辻褄が合う。生きる依り代を失った兄が行き着いた先に待っていたのは父と私の拒否だった。両親の死を目の当たりにして傷が癒えぬ間にその仕打ちなのだ。
(とまって、私の思考、止まって!)
当時9歳の子供が心を閉ざして何の疑問があろうか。
だとしたらずっと私の面倒を見てくれていたのは、このための布石。私はいわゆるチェスのコマ。単なる道具。
(いやいやいやいやいや! それはないでしょ!? そうよ。これはただの仮定。まだ決まったわけじゃない!)
そう思ってもすべての伏線はそこへ帰結しているのだ。一度疑念を持ってしまうともう、引き返せない。必死に否定しても結局そこへ引き戻される。
私は頭を掻きむしりながら叫んだ。
「あああああああああ! お母さん!! お願いがある!」
必死に母を説得し、嫌な父にも頭を下げて兄と同じ高校への受験を許可してもらった。母が思った以上に渋ったのは少し気になった。
もちろん通える距離ではないので、私も寮に入って一人暮らしになる。高給取りではない両親にそんな余裕があるわけないと思っていたが、兄によって食費や光熱費が極限まで節約されていたおかげで、かなり余裕があったそうだ。
その貯蓄や私の面倒を見ていたこと、そして出ていくということを条件に未成年後継人の解消がつつがなく行われた。
本当に恐ろしい程の用意周到さに、私は怒りを覚えた。
「こうなったら……絶対に諦めてやらない!」
そう言って私は拳を強く握り締めた。
兄の入った学校はとにかくハイレベルな進学校だった。私も毎回結果が張り出される学年上位につけているけれど、その程度では入れないレベルだ。
ギリギリ手が届かないレベルというのが、また核心に近づいていると感じさせた。
(ぐぬぬぬぬ……)
死に物狂いの猛勉強の末、私ははれて春から兄と同じ高校へ入学することになった。
そして――
「お兄ちゃん!!」
ばんと派手に扉をあけ放ったのは生徒会室。入学して兄の事を調べると、なんと兄は超進学校の生徒会長になっていた。満を持して乗り込むと待っていたかのように、足を組んで偉そうに正面の立派な執務机に座っている。
他の役員も仕事をしていて、大きな音に気付いてこちらに注目している。
私はずんずんと生徒会長の席へ歩み寄る。久しぶりに見た兄に高揚し、顔が熱を帯びていくのを感じた。
そして文句の一つでも行ってやろうと思っていたのに、気がついたら机の上に乗り兄のネクタイをぐいっと引っ張っていた。
「芽衣!? ――んむっ!」
再び無理やり唇を奪った。
あの時と同じように。問答無用に舌を絡めていると、やがて兄の強張った力がふっと抜けた。私はさらに追い打ちをかけるように激しく舌を絡める。
「んむ……ん……すきぃ」
外野が騒いでいるようだけれど、紅潮して天にも昇るようにホワイトアウトしていく私の意識に届くことはない。
私が満足して、唇を放すと兄は他の生徒会役員を退席させた。話す気になったようだ。
「ふふ、相変わらずだね、芽衣」
「どういうことなのか、説明してくれるんでしょうね? お兄ちゃん」
「もう、お兄ちゃんじゃないけど、説明はいらないんじゃない?」
「どういう事?」
私は彼の真意がまだ掴めずにいた。仮定が正しければ彼は私達という家族の呪縛を逃れ、自由に生きる道を選んだのだ。だけれど、彼の今の態度はそれが正解ではないと言っているように思う。
彼は「はぁ」とわざとらしいため息をつく。そして私の顎をくいっとつまみ上げて、彼の方から唇を重ねる。
さっきとは違い、とてもとても優しくて深いキスだ。
「ん……」
それがとても心地よくて、何故かさっきより強い快感と、多好感を覚えた。彼が唇をそっと離す。私はそれが嫌で「もっと」と切ない顔になってしまう。
「わかった? つまり、これが目的」
「へ? そ、それは……まさか……」
ぱちんと指を鳴らして、肯定する。
「そう。つまり俺は芽衣が想ってくれる前から……ほぼ出会った直後から俺は芽衣が好きだった。だから全てこの時の為だけにありとあらゆるトラップを仕掛けたってわけ。まさかあの時と変わらず、強引に迫って来るとは思わなかったけど」
くくく、と楽しそうに笑っている。それは厭味ったらしいものではなく、計画が成就して達成感をかみしめているものだ。
「は? ――はぁああああああああああ!?」
瞼を閉じることを忘れるほどに唖然となった。
あまりの衝撃に理解できずに口をパクパクとさせていると、彼が答え合わせを始めた。
はじめは馴染めないだけで親を呼ばなかったとおもっていたけれど、それはそういう事ではなく――
恋人になるために家族になってはいけなかったのだ。義理の兄妹なら結婚もできるし、わざわざ手の込んだことをする必要もないけれど、私の家族ではそれが必要だったと言う。
だから両親に情が湧く行為を一切拒んでいた。
そして甲斐甲斐しく私の面倒を見ていたのは、彼なりの愛情表現だった。そしてあのキスするであろうあの絶好のタイミングでお父さんが入って来たのは……。
「あ、芽衣のお父さんと俺はグルだよ」
「はぁああああああああああああああ!?」
なんと、この壮大な計画は父親が共犯だった。つまり頑なに兄を家族として認めなかったのは、初めからこれを認めていたから?
「芽衣のお父さんを説得する時にも一年かけたけどね」
「うそ……じゃぁ……この学校を選んだのは?」
「まぁ俺と芽衣をお母さんから穏便に引き離す為……かな」
「え?」
「この計画のボトルネックはお父さんじゃなく、お母さんだったってわけ。彼女は執拗に俺と家族になりたがった。子供に依存するタイプの人だったんだよ」
「……」
絶句した。まさか私に理解あるのは母で、父は障害だと思っていたのに逆だったのだ。
「食費や光熱費という金銭面まで計画に組み込んだのはあの人に文句を言わせないためだよ」
「で、私はまんまとお兄ちゃんの罠にはまって、この学校を追いかけたと」
「芽衣を嵌めたわけじゃないよ。芽衣が追いかけてくれることを信じていたから……俺は賭けたんだ」
(……この兄。用意周到過ぎる。まるで完全犯罪)
でもだったら私には計画の概要だけでも教えてほしかった。そうしたらあそこまで精神的に追い詰められることはなかったのだ。
そんな私の内心を読み取るかのように、あの時と同じように手を握って指を絡める。
「ごめん……でもあの芽衣がいる家庭を壊したくなかったんだ」
「そっか……」
確かに私に知らせて駆け落ちまがいな事もできなくなかったけれど、そんなことをすれば家庭崩壊待ったなしだった。一方後継人だから正確な義妹ではないけれど、ほとんど自分の息子同然に慕って兄妹と見ていた子が、母の目の前で恋仲になりゆくゆくは結婚なんてことになればまた然り。
あの状態ではこれが最善で、最速だったのだとすっと腑に落ちた。
(……こんなの、狡い……もう嫌いになれないじゃない!)
「こんな面倒くさい俺だけど――」
何も彼に言わせる気はない。もう7年もの想いをもらったのだ。彼の唇に指を置いて遮る。
私の方から言うのだ。
「ずっと好き。あの時から、ずっとずっと好き。あの時よりずっとずーっと好き」
だから……もうお兄ちゃんとは呼ばない。
「好き。私と付き合って、龍臣」
「ああ……好きだよ、芽衣」
私の義兄の恋愛は、知略に満ち過ぎていて好きに成らざるを得ない みくりや @hydrogenoxy
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます