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「ばかなんだよなあこいつ」


双眼鏡で、道端で眠り始めるクロスシンカーを眺める。

クロスシンク。彼女は、何かと交錯して、何かに深く潜ることができる。そして、底に錨を打って、重要な何かを持ち帰ったりもできる。

ようするに、街の正義の味方のアシスト役。今の街の状態や、問題の有無なども調べられる。

それにしても。


「なんだよ、振ったのがこっち側とか。違うでしょ。ぜんぜん違うじゃん」


そもそも別れてねえし。仕事入ったからクリスマス予定無理って言っただけでいじけるとか。

ってか。

おまえも仕事入ってんじゃねえか。


「はあ」


言いたいことは色々あるけど。言えない。ぜんぶ言えない。

正義の味方だった。仕事として、正義の味方をやっている。なかなかあぶない仕事なので、彼女に遺恨を残さないようにと仕事前には色々彼女に言っておく。今回、それが別れるアピールに見られたということか。


「それにしても」


彼女。通信先がわたしだと、なぜ気づかないのか。たしかに気付かれないように低い声だけど。女ですけどわたし。あなたの恋人ですけど。


「クロスシンカーなら、わたしの心も読んでみろよ」


とは、言えない。

双眼鏡で、道端で眠ってる彼女を眺めて防衛するだけ。それだけ。


「この仕事終わったら、ケーキでも買って帰るか」

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クロスシンカー1224 (※lily) 春嵐 @aiot3110

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