追記 片思いから卒業するその日まで

 ※あくまで、個人の感想です。


 友人がつぶやいた、「菊次郎が遺骨を海に撒いてくれって言ったのは、鴻が特攻に行ったからだっていうのを思った」というのを聞いてなるほどと頷き、考えを巡らせてみた。

 四十九日法要のとき、菊次郎は「海に散骨してほしい」と遺言を残している事がわかる。

 実家は勘当され、息子夫婦の墓には入らないし入れないからと、司朗と重澄には伝えていた。

 その理由は、鴻の存在だ。

 彼の戦死を聞いても遺体を確認した者はいないから信じず、いずれ自分の元へ帰ってくるのを九十を過ぎても(文字どおり死ぬまで)待ち続けていたのだ。

 一途な自分の思いによって、周囲の人々に多大な迷惑をかけたことを申し訳なく思って墓には入れないから「散骨してくれ」と、わたしは思ったのだけれど……どうやら考えが浅かった。

 菊次郎は、鴻が戦死したであろう海に、自分の骨をまいてくれと遺言を残したのだ。鴻と「一緒になりたい」思いから。

 それほどまでに菊次郎は、鴻を愛していたのだ。

 頑固な一途さ故に、家族や孫を愛せず悲劇を生んでしまった。

 重澄の言葉から、司朗にとっては「良いじいさんだった」らしい。事実、幼い頃の司朗を可愛がる写真が残っている。可愛がっていても、心は別のところにあったということだ。


 菊次郎のモチーフは誰なのだろう?

 おそらく、作品を読んでいる私たち「読者」ではないだろうか。

 私たちの多くは、報われない片思いをしている。

 アニメや漫画、小説やゲームなどに登場する架空のキャラクター、テレビや配信動画にみられる偶像のアイドル、はたまた車や旅行、スマホやカメラ、鉄道などなにかしらのサブカルチャーに熱中し、金と時間とともに愛を注いでいる。

 グッズや形ある物なら傍に置いて愛でることはできても、多くは代用品であり、それらは決してあなたを選んではくれない。

 生涯未婚率は、一九八〇年代から男女とも右肩上がりに推移し、未婚率上昇は日本特有のものではなく、先進国でも顕著だ。

 同様に、出生率は第二次ベビーブーム以降より始まった減少と前世紀終わり頃からの減少に歯止めがいかない現状がある。日本だけでなく、新興国を含む多くの国においても、二十一世紀に入って出生率は横ばいもしくは低下して推移している。

 貧困状態にあれば多産となり、飢餓が解消されて生活が豊かで安定すれば少産化する傾向は、広く人類社会にみられる特性であり、本能に組み込まれている可能性も高いという。

 あなたの愛は「誰か」ではなく「何か」に注がれ、その「何か」はあなたを選んではくれない。一方的で報われない片思いが、自分自身のみならず周囲に悲劇を生んでいく。

 そう考えると、大好きな司朗のために鴻は、菊次郎を救いに戻らなくてはならない。なぜなら、読者である私たちを救うためだから。

 私たちが救われたなら、鴻は司朗の元へ会いに行くだろう。

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感想「あおに鳴く/あおに鳴く・続」 snowdrop @kasumin

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