第37話 エピローグ
それから5年後――。
明るい秋の昼下がり。
藍子は中学の推薦で入学した県下一の難関高校の講堂に立っていた。
といっても、小学校のときと違い、今度は壇上ではなく壇下である。
壇上には藍子が部長をつとめる英語研究部の部員たちが勢ぞろいしている。
明日の文化祭の本番に備えて、最後のリハーサルが行われようとしていた。
――『Grandmother's keepsake』
藍子部長による脚本・演出の創作英語劇『おばあちゃんの形見』を総勢30人の1・2年生が演じることになっており、今日のリハーサルには校長先生や教頭先生も顔を見せに来てくださるというので、壇上の演技者はもちろんのこと、舞台装置や照明、衣装、化粧など裏方スタッフも、みんな頬を紅潮させて張りきっている。
題名どおり藍子の体験をもとにした内容だが、英語ならではの韻を踏んで笑いを誘ったり、お笑い芸人風のジョークを入れたりして、同校文化祭のメインイベントに足を運んでくださった来場者に楽しんでもらえるように仕上げたつもりだった。
明日の本番を最後に2年生は引退して、受験勉強に集中することになっている。
獣医師志望の藍子は早々に推薦で進む大学が決まっているが、とうさんのように患者の動物を幸せにするプロ中のプロを目指しているので、将来の国家試験の合格はもとより、いつも勉強を怠らず、最新医学を身に付けておきたいと思っている。
*
渡り廊下を並んで歩いて来る校長先生と教頭先生のすがたが見えた。
「さあ、みんな、張りきって行くよ! 春からの練習の力を出しきろうね」
講堂の中央に立った藍子は、壇上に向かって爽やかなキューを出した。
内側から光り輝く頬に、ぺこんとふたつキュートな
毎日、英語劇の練習の前に行っている筋トレ&ボイストレの成果か、高校生とは思えないほどみごとに発達した大柄なボディ、長い髪を頭頂部でゆるやかなお団子に結った、おもむきのあるヘアスタイル、そして、目鼻立ちのはっきりした意思的かつ知的な顔から放たれる独特なオーラが、藍子に気品めいたものを与えている。
明日の本番には、やはり同じ高校へ推薦で進んだ無二の親友の春花が、美術部の仲間を大勢引き連れてやって来て、最前列で応援してくれることになっている。
爽やかな秋風が吹き渡る講堂の入り口を飾る英語劇のポスターは春花の作品で、大胆かつアーティスティックな構図のモチーフは、凛とした藍子の横顔だ。【完】
おばあちゃんの手鏡 🌬️ 上月くるを @kurutan
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