第3話

 彼に、『私にも大切な人が出来たの。お互い大切な人とご対面って事で近状報告で会わない?』と、LINEした。


 彼からは直ぐにOKの返事。

 彼の大切な人は、新しい人?その人のお腹の中の命もそうだよね?


 私の大切な人は、彼と、お腹の中の命。


 彼と、彼の大切な人達とは、彼の新しい家で会う事となった。


ーーーーー


 彼の家に行った。


「あれ?○○さんの……彼氏さんは?」

「あ、まだ。」


 LINEだと、昔みたいに下の名前で会話するのに、実際会ったら名字に“さん”付け。


 急に、他人になるんだね。


 当たり前だけど、やっぱり新しい隣の人が大切なんだね。


 わかってるよ。わかってたよ。


 あなたにとって、私は色あせた思い出だから。


 私は、彼の新しい隣の人を見た。


 髪の短い小柄な女性。


 この人が、彼の新しい大切な人。


 お腹は全然大きくなくて。

 

 私は、お腹の中の命を、自分の本当の想いを隠すかの様にゆったりめのワンピースで会いに行っていた。


 彼の新しい人が、どんな人だなんて、どうでも良かった。


 私は、鞄の中に包丁を忍ばせていた。


 『俺さ、もし子供が出来たら“カッコいいパパ”になるのが夢なんだよね。女の子にとっては“王子様みたいなパパ”。男の子だったら“騎士とかみたいなパパ”。』


 今、叶えてあげるね。


 私は、鞄の中に手を入れて包丁を探した瞬間だった。


 私は、無意識に携帯を取り出していた。


 ……そして。


「あ、ごめんなさい。なんか急用来ちゃったから、今日もう……今からそっち行かなくちゃ。」

「え?そうなの?」

「残念。」


 彼と、彼の新しい大切な人が応えてくれた。


「本当にごめんなさい。じゃあ。」

「また今度な!」

「……うん。」



 私は、もう彼の事も見ずに出ていった。


 “今度”なんて言わないでよ。彼に


 “今度”なんてない。


 “今度”なんて、あっちゃいけないんだ。


 だって、彼等には彼等のしあわせがあるのだもの。


ーーーーー


 本当は、自分でも何がしたかったのか、どうなりたかったのかわからない。


 殺したかったの?


 誰を?


 彼を?


 彼の新しい大切な人を?


 自分自身を?


 でも、選択肢の中に、どちらのお腹の中の命はいなかった。


 彼のいう“カッコいいパパ”。


 女の子にとっては“王子様みたいなパパ”。

 男の子だったら“騎士とかみたいなパパ”。


 に、してあげたかった。


 彼の新しい大切な命にも、私の中の命にも。


 涙は出なかった。


 ただ、声にならない声だけが出た。


 ワンピースで、ベールを掛けられている新しい命に触れた。


 少しだけ、お腹の中で動いたのを感じた。


「彼は、カッコいいパパなんだよ。

 全部大嫌いだったけど、大好きだよ。」


 綺麗に鮮やかに思い出が色づいていく。


 私は、カッコいいママ……なのかな?


 女の子だったら“理想のお姫様”?

 男の子だったら“護りたいお姫様”?


 明日、この命の性別を聞きに行こう。


 どっちの性別でも、きっと思い出より鮮やかな色の命になる様に。


☆★☆FIn★☆★

 


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ドライフラワー あやえる @ayael

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