第2話
「ママー!」
小さな子供の声がする。
産婦人科には、たくさんの女性がいた。
小学生もいれば、夫婦かカップルで来ている人。
皆、なんで来ているの?
妊娠?中絶?婦人系の病気?
色んな人と、色んな理由があって……。
色んな人生や、理由や、命があるのだろう。
私は、ひとりで来ていた。
正式には、ふたり。
私のお腹の中には、命が宿っていた。
父親はいるけど、いない。
そう。私は、シングルマザーになるのだ。
妊娠に気がついた時、中絶しようと思った。
父親はいない。
金銭的不安もあった。
エコーでお腹の中の子を見た時、全然命だって思えなかった。
でも、この命を棄ててしまったら、彼との思い出や想いを全て全否定してしまう気がして。
それは、この命の為じゃなくて、多分、自分の彼からの存在意義までもを自分自身で否定してしまう気がして……私は、中絶せず、産む事を決意した。
親にも話せてないし、話せない。
彼にも言えない。
今だに、彼からは別れてもLINEがくる。
都合がいいのは、変わらないんだなって。
向こうは、綺麗に終わったつもりみたい。
でも、私は違うよ。
でも、なんとなく返事しちゃうんだよね。
なんとなく返事しちゃうのに、お腹の中の命の事は言えなくて。
SNSで知った。
新しい彼女が出来て、ふたりにも新しい命が宿って、結婚するんだって。
私は、ひとりなのに、彼は新しい人とうまくやれていたみたい。
自分から別れを切り出して、思い出も、想いも、ドライフラワーみたいに色褪せていくと思っていたのに。
どんどん色鮮やかになってゆくの。
悲しいくらい、付き合っていた時よりも、どんどん。
大嫌いだったはずなのに。
大好きでした。
「俺さ、もし子供が出来たら“カッコいいパパ”になるのが夢なんだよね。女の子にとっては“王子様みたいなパパ”。男の子だったら“騎士とかみたいなパパ”。」
……お腹の中の命の性別は、産まれるまで聞かない事にしてた。
そっか。私まだ、彼の事やっぱり大好きなんだ。
じゃあ、彼の夢を叶えてあげなくちゃだよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます