エピソード10終:メラクルの先のミラクル

 案内人ケラハーは優秀だった。


 中継地点で置いてきた人数を除いても300人近くになる集団を各村々において、宿の手配や食糧の確保を的確に行った。


 そう、神々の山嶺では小規模ながら村がいくつも点在していたのだ。


 そこにある程度の資材や食糧を事前に確保しておき、村人たちに管理させていたようだ。

 タダモノジャナイ……。


 そんなわけで私たちは突発的なモンスターの襲撃以外は落ち着いて過ごすことができた。


 農作業する人、牛を引く人、あぜ道で休憩しておにぎりを食べる人が村にいて、少ないながら子供も草を手に持って走っている。

 数日前にもサリーが同じように走ってた気がするけど気のせいよね?


「人の営みがあるのはいいわね」

 私は小規模ながら人の暮らしの匂いのする村の景色を眺めそう呟く。


 それにコーデリアは相槌を打ち、私に言う。

「なんですか、その時を重ねて達観したご老人のようなお言葉は」

「誰がババアよ!」

「そんな言い方はしてませんよー」


 第2回の調査団のときにも行われたことだが、各中継点に人と物資を置いて活動拠点にすることで、本国と神々の山嶺との連絡のやり取りが可能となる。


 同様にここまでのルートにあった村々もまた中間拠点とする。


 これがさらに長い時間をかけて、町や村に発展していく。

 そうして、こちらとの行き来を可能にして人の領域を増やしていくのだ。


 それは開拓村の発展とも似ている。

 当然、ここは人の住まうには未開の土地。


 盗賊などは出ないが、危険な野生動物やモンスターにひっきりなしに遭遇することになる。


「モンスターが出たぞー!」

 まるで民話のオオカミが出たぞーと同じ言い方だが、そんなことで嘘はつかない。


「メラクル様、そちら行きました!」

「あいよー」


 同行している兵士に軽く返事をして、ぴょんぴょんと飛ぶように大型モンスターの身体を駆け上がり、その顔にガンダーVをぶっ放す。

 大型ぐらいなら必殺技は必要ない。


 それでも今までのモンスターよりも硬い気がする。

 皮膚が鉄のような硬い質のモンスターもいた。


 ハバネロはモンスター資源も余すことなく利用していたが、神々の山嶺に住まう民も同様のようだ。


 モンスター素材は良質な魔導素材になり得るので、新しい素材の発見はDr.クレメンスやその弟子となったヒエルナあたりは喜んで研究しそうだ。


「見事なもんだ。人の身だけであんなに軽く大型を討伐してしまうとは」

 モンスターを片付けて戻った私にケラハーがそう声を掛けてきた。


「人の身だけでって、他に何か道具とか使ってんの?」

「魔導機だな」

「魔導機?」


 なんぞそれ。


 神々の山嶺には前時代の伝承が残っており、魔剣を起動キーとしてゴーレムのようなものを動かす技術が僅かに残っているそうだ。


 もっとも今の私のような動きはできないし、ブリキのおもちゃをそのまま大きくしたような程度だとか。


 また前時代の遺物も発掘されているが、今のところ、それはすでに過去の遺物としての意味しかないようだ。


 そうやって着実に道を進み、たどり着いた目的の場所はまるで巨大な天空の城とでもいえる場所であった。

 遠くに山々を眺めつつ、周りの崖下には圧倒的な緑と川や草原の風景も広がっている。

 季節によっては雲の上にあるようにすら見えるらしい。


 そして、そこはモンスターの大群に襲われていた。

「……はっ?」


 さらにそれらモンスターの大群を壁のように、ちょこんと手足の生えた大きな丸太のようなものが立ち塞がる。

 丸太の上で誰かが剣を突き立てている。


 驚くべきことに大きな丸太はその誰かが剣を突き立てた状態で動かしているようだ。


「はっ?」

 なんだありゃ、メラクル調査団の面々の誰もがそう思った


 大きなブリキが腕を振るうと、大型モンスターが吹き飛ばされる。

 強い、強いぞ大きな丸太!


 大型モンスターは負けじと大きな丸太に軽いジャブのようなパンチを放つ。


 すると、大きな丸太の足がぽきんと軽快な音がしそうなほどに、簡単に折れた。

「「「折れたァァアアアアア!?」」」

 皆で声を揃えて叫んでしまった。

 そのあまりの呆気なさはまるで小枝のようだった


「ああっ! だからあんな細い足ではダメだと言ったのに!」

 ケラハーが嘆く。


「呆けている場合!? 行くよ!!」

 こうして私たちは神々の山嶺の地にたどり着く。


 そこから色々あって、半年で帰る予定が伸びて1年後の帰還となる。


 その間にデンノウ妖精と名乗るアイちゃんとの出会いや猛牛突撃やフルーツビスケット革命とか、サリーの結婚とか……まあ色々あるんだけど。


 それはまあ、別のお話。


 人生ってのは甘くないし、辛いもんだったりする。


 あの戦いのときにはもうムリかなぁとか何度も思ったけれど、ムリだと思うものを乗り越えたらその先にはミラクルがあったりするもんだ。


 これはそう、ただそれだけの話……のその先のほんの一部。

 それが人生というものなのだ。

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我が名はハバネロ〜大人気ゲームの中の嫌われ悪役公爵に転生!?超強い公爵様だけど、詰んでます〜 パタパタ @patapatasan

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