第10話 クリフとくっつく魔法
「この席、空いてる?」
横を向くと、クマゴローがトレイを持って尋ねていた。
「おお、前にいた客は先ほど立っていったな。クマゴロー、ソレ、全部食べ切れるのか?」
クマゴローは頷きながら、私の隣の席に座る。ちなみにノレンは向かいの席に座っている。
「生姜焼き定食に、うどん大盛か。まあ、食べる子は育つからな」
「クリフさんは野菜というかサラダというイメージがあったけど、魚定食なんだね」
私たちの食事はまだまだ中盤だ。今日の魚定食は煮魚。この学食のオバちゃんが作る魚定食は当たりだ。今どきの子はそこまでこの定食を選ばないので、ランチ時間が遅くなるときも残っていてありがたい。
「この世界で蔓延しているハイエルフ、エルフの食習慣の定番か。そんな草ばかり食べていて数千年も生きられるわけなかろう。ま、私の世界ではそんな食習慣はないが、どこぞかの異世界ではそんな食習慣のハイエルフ、エルフがいるところもあるかもしれないがな」
「数千年、、、」
ノレンの食いつくところはそこか。永遠の若さでも欲しいか?ん?
我が世界で就職してくれれば、その望み多少なりとも叶うかもしれんぞ?
「スマホでオンクレしていた?」
スマホの画面がオンクレのアイテム一覧のままだった。この画面でオンクレと気づく我がクレーンゲームの師、さすがクマゴロー。
「そういえば、魔法でクレーンゲームを取りやすくすることはできるの?」
「あー、私も考えたんだ。コレが物がくっつく魔法」
人差し指で、デザート用に購入したゼリーのフタを押さえる。人差し指を上に持ち上げると、ゼリーもついてくる。この世界だと手品にしか見えんな。
「おおっ」
それでも二人は驚いてくれる。いい子だな、二人とも。
「コレは私の体がどこかに触れていなければならないのだが、オンクレではそもそもどこにマシンがあるのかさえ分からん。店舗のマシンではボタンや台に触れていれば何とかできそうな気もしないでもないのだが、内部構造があっち行ったりこっち行ったり複雑でな。ソレを考えてボタンを操作しながら魔法を使っていたら、アームが景品を通り過ぎてしまう。魔法というのもなかなかに繊細な作業でな。それを鍛えるなら、まだクレーンゲームの腕を磨いた方が早道だ」
ついつい魔法で何とかできないか考えてみたけど。ツメと景品がくっついてくれれば、どんなにゆるゆるなでなでアームでも何の障害もない、とか思っちゃったりしたんだけど。
クレーンゲームの操作の判断って、ほんの一瞬。同時にアームのツメに魔法を使うって、自分の体ならともかく遠隔操作となると無理ゲーだ。
実は魔力を込めて高火力で広範囲に街をぶっ壊す方が、魔法としては楽に使える。もちろんこの世界ではやらないが。ハイエルフ、エルフともども体内に溜められる魔力は大きい。小さい細々とした作業が現実の作業でも大変なように、魔法でも繊細な作業の方が難しい。
「まだまだ私は修行が足りない」
反省。単独ではなく同時並行でき細かい作業ができる技術を手に入れる努力をせねば。
「いや、クレーンゲームに使えない方が良かったかもしれないよ。クリフが一回でとっていたら、私たち知り合えなかったかもしれないんだしっ」
ノレンとの出会いはゲームセンターだった。一回で私がにゃにゃタロを持ち帰っていたら、確かにスタッフに何か言われることもなかった。
「それもそうだな」
ノレンとホンワカと微笑みあう。
「だが、実力で手数を少なくしたいとは思っている」
私は希望を口にする。お菓子などのにゃにゃタロ以外の景品なら意外と冷静なのだが。一、二回のプレイでどれくらいで取れそうか予測し高い金額になりそうなときはプレイをやめ、沼りそうなときは素早く撤退できる。
「そうだねぇ、できるだけ少ない回数でとりたいよ」
ノレンも私に同意する。
「うーん、会社側もいろいろ考えてるからね。クレーンゲームは会社側のルールに則っているし」
クマゴローも言いたいこともごもっとも。台の設定は店のスタッフが思いのまま。恐ろしいことに世の中には設定したスタッフでさえ取れない台というのも存在しているらしい。それはもう店選びを考えるしかない。景品が取れなさすぎると、店には客が入らないので、店が潰れる。だが、景品が取られ過ぎても店が潰れてしまう。いい塩梅が大切だ。
ただ、望みを言うならば、安い景品や在庫品でもいいので、たまには一撃必殺の台も置いてほしいものだ。超簡単台、激甘台とか書かれているのに、どこがだよっ、とツッコミ入れるのは客にとってもストレスなのだ。
アイ ラブ クレーンゲーム さいはて旅行社 @r2021
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