第9話 クリフとラグ

 私の名前はクリフトス・アーガラー。親しい者はクリフと呼ぶ。

 昼食時、大学の学食は混む。足場のないほどとは言い過ぎだが、早く食事にありつきたいと願う腹ペコ学生たちには戦場だ。

 私はすでにランチを手にして、人を待っている。

 人ごみのなか、約束していたノレンが早足でやってきた。すぐに私がわかったようで、一直線にやって来る。小柄な私が座ったままだったのに、ノレンはよく気づいたな。


「ごめん、クリフ。少し講義が長引いた」


「問題ない。急がなくても良いぞ。人が多すぎて危ないからな」


「ありがと。すぐに買ってくる」


 急がなくてもいいというのに、ノレンは素早く食券機に並ぶ。混む前にノレンの分も買っておいたら良かったのだが、何が食べたいか聞きそびれた。しかも、普通の人間は食事が冷めたら嫌だろう。私のランチは状態保存の魔法をかけたので、出来立てほやほや、温かいままだ。そうか、ノレンの分も魔法をかけておけば良いのか。ただ、いつも学食というわけでも、いつも私の方が早いとも限らない。反対に気を遣わせてもいけない。ノレンは魔法が使えないのだ。


「おまたせ。クリフの分、冷めちゃった?」


「大丈夫だ。ほら、まだ湯気がたっておる」


「ああ、魔法?いいねえ、便利だね」


 さすがに時間の経過から冷めていないとおかしいと気づかれたか。

 こちらの世界ではレンジでチンすれば同じ効果が得られる。この魔法は確かに便利だが、取り立ててこの世界で必要かというと少々微妙と言わざる得ない。代用できるものが多々あるからだ。


「あ、クレーンゲームのアプリ?」


 ノレンが来るまで、スマホでオンラインクレーンゲームのアプリを開いていた。今すぐやらないとダメな台でもない限り、オンラインクレーンゲームは私は家でじっくりやる派だ。自分がやらなくても動いている台を見て、他人のアームの動きを勉強するのも上達の手助けとなる。

 オンラインクレーンゲームといちいち言うのが面倒になってきたのでオンクレと略すことにする。

 今は多くの企業がオンクレに参入している。オンクレはパソコン、スマホ、タブレット等で使用可能だ。ただ、アプリ版があるかどうかはそのオンクレによる。ブラウザ版しか出ていないところもある。


「私もやったことあるけど、小さい画面だとなかなか難しいね。あと狙った場所からズレるのがちょっとね」


「確かにスマホだと小さいが、手軽にできる利点はある。パソコンとスマホ、一概にどちらでプレイするのがいいとは言えないからな。通信回線が一緒でも、オンクレによって相性がある。映像やラグ、あとアプリの操作がしやすい、誤操作しにくいという点でパソコンかスマホかを選ぶのも一つの手だ」


 オンクレで一番ネックだと言われているのがラグである。オンクレに限らず、オンラインゲームで発生する遅延のことを指す。例えばアームの横移動のボタンを押して止めようと思った位置に来たので指を離す、離したにもかかわらず映像の中のアームは少し動いてから止まってしまう、狙った位置から多少のズレが生じるのがラグである。

 このラグが大きいオンクレほど、やる気になれない。たまに挑戦してみるが、もう想像力の賜物である。もうボタンを押していないのにどれだけ進むの?っていうオンクレは何を鍛えるためのゲームなんだと思わざる得ない。ただ、月日が経つと改善されるオンクレも存在するので練習台でもたまにやってみる方がいい。〇レマスは以前はラグが酷くて、たこ焼き台しかできないわーと思っていたら、普通に改善されていた。ラグが大きいオンクレをどうしてもやりたいのなら、たこ焼き台がおすすめである。たこ焼き台って、ピンポン玉を拾う入れ物が超狭いとかではなければ、ラグが酷くてもある程度は対応できるからだ。


「ラグは自分の使用しているパソコンやスマホ、通信回線などにも影響されるが、時間帯や混雑状況、そして、そのオンクレのサーバーやシステムも大きく関係するところだからな。プレイに不具合が生じて問い合わせしても要約すると、お前の使っている機器や回線のせいだろ、と返事が来るオンクレは課金する気にはなれないな」


 規約等にはオンクレ側は責任は負いませんとは書かれているが、それでもかなりのオンクレでは対応策がとられている。通信回線の状態が悪かったり、アプリを立ち上げなおさなければならない状態になってプレイが中断されたとき、数分間以内に戻ればプレイを続行できたり、親切なオンクレでは次の人にハイエナされてしまっても台を用意してその人がやっていた状態から再度プレイをさせてくれるところもある。

 オンクレのなかにはプレイを続行できることを軽視している企業もあるが、アシストがあるオンクレでアシストを望む場合、そのプレイの継続回数というのは消費者にとって大切な回数なのだ。アシストというのはオンクレが決める回数以上を継続してプレイすると、景品を取れやすくするようにしてくれる神の手とも言われる存在なのだ。半ばで途切れてハイはじめからやり直してね、と言われると、そのオンクレではやる気がなくなるよ。


「クリフ、そういうことあったんだね」


「ふっ、そのオンクレは課金する前に気づいて良かったと思うさ。不幸中の幸いだ」


 オンクレは大手だから良いってワケじゃない。


「しかも、そこ、問い合わせが当日に返事が来たことないんだが」


「今どき、それはないよね」


 大手だから大名商売できるのか。利用者からの信頼は大切なものだと思うんだが、大手には必要ないモノなのだろう。

 もちろん大手だからこそしっかり運営しているところもあるよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る