第2話招いてみたはいいが

人通りが少ないといっても、通行人はまばらに通りすぎていく。

嗚咽混じりに泣き続けた春浪の涙でしみ始め、七分袖のシャツの胸元が濡れていた。


行きつけの喫茶店は現在地から距離があり店主マスターに詮索される恐れもあり、落ち着いて話せるといえば自宅しか思い当たらず、彼女を招くことにした。


自宅に到着し、玄関前で立ち止まった彼女は瞳を輝かせ、「ああぁ......良いなぁ」と声を漏らしていた。

緊張を含ませた表情の彼女を自宅に上がるように促すと用意した来客用スリッパに足を突っ込み、落ち着かない様子で視線を泳がせる彼女だった。

「扉に僕の名前が書かれたプレートが掛かってる部屋で待っててください。飲み物とか用意するので適当に座って寛いでてください。飲み物は何が良いですか?」

「じゃ......じゃあ、紅茶を。無かったら水でも良いので......」

「紅茶に砂糖は入れます?」

「少し、だけお願い......します」

「分かった」

小さく頷き、リビングの奥のキッチンに歩いていき、準備に取り掛かった。

彼女が恐る恐る階段を上がる足音が聞こえる。


男子の自宅に何度も訪れていそうな筈の彼女があれほど緊張しているとは意外だ。男子を掌で転がし──というと語弊がうまれそうだが、誑かし、あんなことやこんなことに手を──といった想像が過っていたのだが、見当違いのようだった。


冷静になると、彼女を招いたはいいが......どうすれば。


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桜の樹のしたでエイプリルフールだからと言って嘘を吐いた人気者の彼女 闇野ゆかい @kouyann

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