桜の樹のしたでエイプリルフールだからと言って嘘を吐いた人気者の彼女

闇野ゆかい

第1話エイプリルフールだからといってもやりすぎな嘘......

4月1日、エイプリルフールと定着した日の昼下がり、桜の樹のしたのベンチに腰掛けていた。


エイプリルフールだからといって、これといった嘘もない僕にとっては、無意味なもので退屈しのぎに財布だけもって目的地も決めること無く散歩していた。

見慣れた景色の筈が桜を目の当たりにした瞬間、一瞬ではあったが別世界だろうかとさえ思ったほどであった。

そんなこんなで、どこがそんなこんななのかわからないだろうが......桜を眺めたくなり、桜の樹のしたに設置された背もたれのあるベンチに腰掛け、今に至る。

桜の花びらが風で舞っているのを眺めていた。

「早見さん、体調が優れないの?」

どこからか透き通った声が僕の苗字を呼ぶのが聞こえた。

周囲を見渡すが人影すら確認出来ない。

人通りは、皆無なので探しやすい筈なのだが、声の主の姿を視認出来ない。

「ここだよ。早見さん」

ベンチの後ろの公園に足を踏み入れようしたところで背後から声がして、振り向いた。

「春浪さんですか。普通に声を掛けてくれませんか」

声の主、春浪麻那は柔らかな笑みを浮かべ、反応が気に入ったようで控えめな笑い声をあげる。

「私のこと、さん付けなの?てっきり呼び捨てかと思ってたのに。ははっ」

「聞かれてましたか。その反応は」

去年、友達に春浪のことを聞かれ呼び捨てをしていた。

目撃されていたらしい。本人に。

「まあねぇ......たまたま居合わせちゃったというのか、そんな感じ。普段のような振る舞いでいいよ。私に気遣いなんてしなくていいんだよ、早見っかぁーずきっ!」

「ほんとにごめんなさい。妬んでいるわけではなくて、その......ごめんなさい。早見さんでお願いします、生意気ですみませんでした。春浪さん」

彼女のからかう呼び方に耐えきれず、頭をさげ謝罪した。

「ははぁ~ん。こういうのには慣れてないのか、は」

彼女との今後の関わり方が......

「勘弁してください、春浪さんっ!彼氏がいるんですから、こういうのはっ......」

「冗談だよ、早見さん。唐突なんだけどさ、私と付き合ってくれないかな?早見さん」

彼女から笑顔が消えて、真顔でそんなことを口にした。

彼女が真顔で見つめてきた。

「それは、エイプリルフールに吐く嘘にしては趣味が悪い......よ。春浪さん」

彼女は、かぶりを振り否定した。

「嘘ってわけでもないよ、早見さん。正確には付き合っているフリをしてほしいという話なんだけど。彼とは無理なの、もう......耐えられなくて──」

彼氏のことを打ち明け始めた彼女。

彼女の話によると、彼氏から暴行を受けているとのことで、別れようにも別れることが出来ないらしい。

「酷いな、それは。僕が付き合っているって言っても彼氏が納得するかも分からないし、両親や友達には......」

「言えないよ、無理かな......早見、でも......」

彼女がもたれ掛かり、胸に顔を埋めて泣き出した。


「春浪さんが救われるなら、付き合うよ。付き合っているフリでも何でも」



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