牛肉玉ねぎ人参じゃがいもを炒めつけて水責め、煮え湯を飲ませて火を止めて安心させたところでルーをぶち込んでやったら奴の腹が減ってざまあwww

山口 実徳

伝説の旅

 俺は牛肉。何処へ行っても崇め奉られる、誰もが認める肉界の王者だ。


 チアール遣いの魔術師玉ねぎ、カロテン剣術遣いの剣士人参、兇悪なソラニン武術遣いの怪力じゃがいもと、ひょんな事からパーティーを組んだ。


 最強のパーティーを組んだ俺達は、黄金色に輝くという伝説の賢者の石を求めて、チルドの門を出て、広大なダイ・ド・コロに足を踏み入れた。


 白銀に輝く細い道を進んでいくと、じゃがいもがバランスを崩して人参、玉ねぎ諸共、真紅の谷にゴロゴロと落っこちていった。


「おーい! みんな大丈夫かー!」

 谷底を覗くと、仲間たちはびしょ濡れになっていたが、無事なようだ。

「痛ってー。悪いな、足を踏み外しちまったぜ」

「痛たたた…気をつけて下さいよ、あなたと違って私は繊細なのですから」

「貴様は安定感に欠けるな。まったく、それでも武術家か!」

 カッとなったじゃがいもは、ごつごつした顔を吊り上がらせて怒りに震えた。

「言ってくれるな人参め! 前から貴様の甘ったるい面が気に入らなかったんだ! 俺様のソラニン武術を見せてくれるわ!!」

「仲間割れはおよしなさい、お互いをお互いの良さで補い合うのがパーティーというものですよ」

 沈着冷静な玉ねぎの仲介により、世界の終末は避けられたようだ。じゃがいものソラニンは崩壊を招く危険な武術なのだ。ホッと胸を撫でおろすと、背後からキラリと光が差したので、恐る恐る振り返った俺は狂喜乱舞した。

「おーい! お前ら、早く上がってこいよ!」


「これは……」

 何とか絶壁を這い上がり、ひょっこり顔を出した玉ねぎは絶句した。

 そこはマナ・イタ。伝説の武器の宝庫だった。

「魔術師の憧れ、オ・タマではないですか…まさか、こんなところで手に入るとは」

「見よ、デ・バの輝きを。何と美しい……」

「ヘラか。ふん! こんなものでも役に立つかも知れないから、戴いとくか」

 みんな満足そうである。俺はス・プーンを手にした。頼りにしてるぜ、と声を掛けるように柄を力強く握った。

「フフフ……」

 人参は妖しく薄い笑みを浮かべ、鈍く光るデ・バを構え、目をカッと開いて俺達に向かってきた。


 しまった! 魔剣だ!!


 瞬く間に玉ねぎとじゃがいもの防具は粉々に砕け散った。何という早業! オ・タマもヘラもス・プーンでさえも斬撃をかわすのがやっとである。防御力を失ったふたりは成す術もなく、じゃがいもは無駄と知りながら守りの構えをし、玉ねぎは恐怖のあまり催涙攻撃魔法・チアールを放った。防御を解かれたじゃがいも、更には玉ねぎ自身までもが大ダメージを食らってしまった。

 ついには人参自身の防具まで魔剣デ・バによりことごとく破壊された。

 マナ・イタの地は破壊され尽くした防具とチアールの毒により、惨憺たる有様である。

 俺は一か八か、古来から伝わる拳法・猫の手で人参を組み伏せた。その瞬間デ・バは手を離れて人参は我に返り、自らが起こした惨状に呆然とした。

「……私は……何ということを……」

 怒り狂ったじゃがいもを

「魔術師でありながら魔剣と気付けなかった私がいけなかったのだ。じゃがいも氏も魔剣の力を抑えられなかった自らの未熟さを思い知りなさい」

と再び玉ねぎが説き伏せた。

「兎角、牛肉氏に救われた。心から感謝する」

 何を言う、俺も冷静な玉ねぎに救われているのだ。


 遠くから高らかな笑い声が聞こえた。

「魔剣に惑わされるとは情けない。まんまと我らの術に嵌ってくれて助かったわい」

 そうか、魔剣はこいつ等の仕業か。何者なんだ、貴様等は!

「吾輩はリョー・リシュ」

「ミリン、ダヨ」

 クソッ! ワフウの使者か!?

「そなた等に決闘を申し込む、決闘場は用意した。さあ、着いてこい!」


 そこは高い鉄壁に囲まれた円形闘技場であった。奴らより先にそこへ舞い降りると、底は油が薄く膜を張っていた。

「何だこりゃ、異種格闘技か?」

 次第に闘技場は熱を帯び、足元の油がふつふつと音を立て始め、俺は脂汗を垂らした。これは俺達の熱気のせいじゃない、闘技場自体が熱くなっているのだ!

 そして奴らはニヤニヤといやらしく笑っているだけで、降りてくる様子は一向に訪れない。

「おい、何か変だぞ」

 じゃがいもが不安そうにつぶやくと、背負っていたヘラがふわりと浮かび、俺達を激しく叩きつけた。何度となく倒れては起き上がり、全身が煮えた油にまみれたとき、大量の水が降り注いで頭のてっぺんまで浸かった。

「今度は水責めか、なんて奴らだ」

「いや、ただの水責めではありませんよ。闘技場は熱を帯びたままです」

 じゃがいもが一矢報いようと壁を登ろうとしたが、ヘラが俺達を叩きつけ沈めようとさえする。

「貴様等、卑怯だぞ! 戦いを挑んだならば降りて正々堂々勝負したまえ!」

 降りてきたのは奴らではなく竹槍だった。啖呵を切った人参に突き刺さり、苦悶の表情を浮かべたが、貫かれることだけは何とか免れた。

「……まだ早い、もう少しだ」

 激痛に耐えつつ竹槍を掴み、奴ら目がけて投げ返した。それはミリンの体を貫いたが、涼しい顔をしており戦慄した。


 水はすっかり熱湯だ。ぐらぐらと揺さぶられ体の芯まで熱くなり朦朧とする俺達は、だらしなく弛緩した。今にも溶けて消えてしまいそうである。

 高みの見物を決め込む奴らが、黒い液体を見せつけてきた。

「お前達、これが何かわかるか?」

 俺は血相を変えた。駄目だ、それを入れられてしまってはワフウの手に落ちてしまう!

「やめろ! それは俺達の目指す道じゃない!」

 しかし全身が火照ってしまい、どうすることもできない。声を出すのでさえ精一杯だった。

「イッヒッヒ、ワフウの力を見せつけてくれよう!」

 最早これまでと天を仰いだその時。

 黄金色の塊が、宙に浮かんでいるのが目に入った。あれはまさしく……


「……賢者の石……」

 その存在に気付いた途端、ふたりは真っ青な顔でやめろ! やめるんだ!! と悲鳴のように叫びだした。

 しかし奴らの願い虚しく、賢者の石は闘技場に降臨し、辺り一面を黄金色に輝かせた。

「ミリン、ダヨ」

「やめろ! この香りに敵うものはない! こうなってしまっては、何をしても無駄だ!」


 悔しそうにする奴等を他所に、俺達はオ・タマの船に乗ってス・プーンで舵を取り、空の旅へと出た。

 目指すはそう、平原サラに築かれた白く光り輝くライスの舞台、そして幸福の地テイブルだ。


「どうしたの? これ」

 ズラリと並んだ醤油、酒、みりんを見て妻が言った。

「カレールーが見つからなくって……もしなかったら、肉じゃがにしようと思ったんだ」

 少し呆れたような笑顔の妻に、サラダもスープも用意したんだと、取り繕うように言った。

「あなた、忘れているでしょう」

 完璧にできたと思うのだが……。俺が一体何を忘れたと言うのだろう。記憶を頭の隅まで捜索しても思い当たらず、え? え? とばかり言っていると、妻が買い物袋からパウチを取り出した。

「ほら、らっきょうと福神漬け。あなた、これがないと駄目でしょう?」

 パウチの中味を皿に開け、まだまだ修行が足りないね、と笑い合った。

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牛肉玉ねぎ人参じゃがいもを炒めつけて水責め、煮え湯を飲ませて火を止めて安心させたところでルーをぶち込んでやったら奴の腹が減ってざまあwww 山口 実徳 @minoriymgc

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