第49話 まあ、ザギリを通して見せられたのは
まあ、ザギリを通して見せられたのは1度きりじゃが、実際は無限に近いほどの回数の生成と消滅の果てに、反物質の寿命がわずかに短かったため、やがて、世界は物質だけで構成されるようになったんじゃ。
くわばらくわばらじゃ。もし、我とそっくりな者がその辺を闊歩し、我に触れれば大爆発とか洒落にならんからな。
そうやって、混沌の無の領域の中で宇宙の真空という種というべきものが生まれたんじゃ。この種は衝突によるエネルギーをため込み、超高温高圧となり、相転移により、大爆発を起こし、宇宙が超加速的に膨張する。
やがて、低温低圧となり落ち着いた後も、宇宙は膨張を続けておる。
とまあここまでが宇宙の創生の話じゃが、膨張をつづけた宇宙もいずれ反転し、今度は縮小を始める。そして、宇宙は超加速度的なメルトダウンを起こし、一点に収束し、やがて無次元に帰っていく。それがビッククランチと名付けられているそうじゃが……。それこそ、今回は縮小の特異点となった斑が引き起こした騒動のことじゃ。
我らが見ている限りにおいては、そんな現象はみられなかったじゃと?! そりゃ、当然じゃ、主観的に見たものと客観的にみたものとの違いじゃな。
宇宙の膨張や収縮も、例えるなら風船の表面に銀河など星々をちりばめ、膨らませたり縮めたりしたものじゃ。客観的にみれば、どこかを中心に膨張しているわけでも収縮しているわけでもなく、視点を主観的に変え、風船上の一点から遠くなればなるほど、距離が遠ざかったり近づいたりして、膨張や収縮が早いのがわかるじゃろう。逆に観測点の近くでは、ほとんど距離に変化はないのじゃ。
じゃから、今現在も地球から150光年離れた宇宙では光の速さで膨張は続いているが、太陽や月など地球からの距離の変化はカメの歩みより遅く、まるで問題にもならんのじゃ。
まあ、斑が計画した大宇宙収縮による混沌回帰作戦は、個々の体に巣くう混沌の破片の宿願だったじゃろうが、ザギリが特異点で対応した天地創造の剣舞によって相殺され、今日も三界は平々凡々、大過なく過ごすことができているのじゃ。
よくぞ、奇跡のタイミングと役者たちが揃ったものじゃ。
その立役者の天野狭霧がどうなったかって?
それは……、そういえば、ザギリのやつ鍛冶の神、天目一箇神(あまのまひとつのかみ)とは違うって強調していたみたいじゃが……。何を隠そう天目一箇神は、われが岩戸に隠れたとき、我を誘い出すための祭りの刀剣や斧それに鉄鐸などの祭具をつくった鍛冶の神でもあったのじゃ。
もちろん、その祭具の中には、ザギリの左足から生まれた天魔返剣の欠けた先端を使った天沼鉾も祭具として飾られておったのじゃよ。わが父伊弉諾尊(いざなぎ)から返してもらっておったとは運のよきことよ。
そこからは、みなも知っている通り、我が天岩戸から出るときに光の神、闇の神そして境界の神を生み出したのじゃが……。境界の神、天野狭霧の前世、別天津神は自らの肉体から生れ出た天魔返剣の剣先に呼応し、元々あった境目を創るという神性を伴いながら跳ばされた別次元から呼び戻されたようじゃな。
奇跡と言えば奇跡じゃが、必然と言えば必然じゃな。
ろくに考えもせず、拗ねて天岩戸に引きこもっただけなのに、用意された祭具で神事を行い、光と闇の神を生み出し、境界の神まで無意識に召喚した神力には、我ながら 流石、天上最高神じゃな。自分で自分をほめたくなるぞい。
まあ、ザギリに関しては言った通りじゃ。
再び都合の良い偶然は起こるもんじゃなんじゃ。
ほら一人、一条文化ホールの入口に、遅れてやってきた東大路キムコがおるじゃろう。
あやつの首に掛かっているのが、天魔返剣の剣先を加工したペンダントなのじゃ。われの祭具をパチって堕天して行くとは許しがたい、が、何か感じるものがあったんじゃろ。この時から、すべてが計算された出会いの連続じゃったのだろうな~。
そら見ろ。入口のところで倒れている天野ザギリに声をかけておるわ。ザギリを揺り動かして……。うむ、ザギリのやつ気が付いたようじゃな。おおっこの光景、前にも見たことがあるのう~。
だか、このシーンに既視感と意味を知るのはザギリだけじゃろうな。
その驚いた顔。うむ、ミキとヤミに部屋の前に掘り出されて倒れていたところを起こされた初の出会いの時と違って、今回はペンダントの素材に気が付いたようじゃ。
気が付いたか?! お前は無次元の世界で天地創造を為し、三千世界に放り出され、自らの体の一部を手掛かりに、一筋の光を手繰り寄せて元の場所に戻ってきたんじゃ。しかも、前回のようにアイツに遅れを取ることなく、今回は堕天した時とは違って、わずかの差で先に消滅した反物質だった片割れを自ら取り込み、完全な記憶と完成した体で蘇っておる。
両目ともアースアイとは中々に神々しさを感じるものじゃな~。
逆に今回混沌に不覚を取った光と闇の神々は、おのれの力の無さを嘆き、益々荒ぶることじゃろう。今、我の子孫が開国したこの国は、成長を忘れ、停滞し、先進国最低の賃金と生産性に陥って、閉塞感に包まれておる。そして、周りの国は虎視眈々と神の国の領土を狙い、牙を磨いているというのに、平和ボケしたこの国の上級国民は、いまだに落ちぶれた二流国だと認識できず、世界のトップクラスに君臨していると錯覚して胡坐をかき、自分以外の誰かがなんとかするじゃろう楽観視しておるのじゃ。この国が地盤沈下を起こしているとも気付かずに……。
光と闇の神には、もう一度、一条財閥を通してこの国を正しい道に導いて欲しいものじゃ。ジェンダーじゃとかボーダーレスじゃとか境界がドンドン曖昧になっておるが、いかにも希望に満ち溢れた語感を政治家たちは多用しておるが、そこにおる国民は希望の見えない世界じゃと、意欲や意志が低下しておる。本質や能力を無視した平等なんぞ、本物が冷遇される世界にしかならんのじゃ!!
本質や能力の差を正しく見極める神眼(アーズアイ)が必要なんじゃ。
そのためにも、光と闇、正義と悪がしっかりと民衆の目に正しく晒(さら)され、混じることのなきよう頼んだぞ。
天野狭霧命(あまのざぎりのみこと)よ!!!!!!
完
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
最後までお読みいただきありがとうございました。
この話のデータも飛んでしまって、新たに書き直したもので、最初はどんな結末(どうやって元の世界に帰ってきたか)にしたか忘れてしまいました。
剣先の欠けはなかった気がする。
最後、無理やり天魔返剣の剣先を関連付けたため、急遽第9話****ヤミの視点****部分を加筆して矛盾の無いように修正しました。
ご迷惑をおかけしますがご理解ください。。
境界神、天野狭霧尊(アマノザギリ)の系譜 天津 虹 @yfa22359
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます