第40話 歌

 「私は、追伸の後に続いていた古代文字を、インターネットで世界に流そうと思っている」

 「ああ。それは良い考えだ」

 地面に座っている弘は、振り返って言い、再び幸に背を向けると、回答書の作成にいそしむ。

 「届けてやれ」

 背を向けたままでつけ足した弘は、空に向かって親指を突っ立てた。兎兎も、鼻先を空に向かってあげると、鼻を鳴らして応援した。

 「うん」

 明るく返事をした幸は、別保存しているスペクトログラムを変換させた音声を配信するため、バイテク蔓草に指示を出した。

 「バイテク蔓草。インターネットに接続」

 バイテク蔓草に蕾がついた。それが見る間に開き、桃色の小花となって甘い香りを漂わせる。

 「この古代文字は、ヒトには鳥の囀りのような獣の咆哮のような歌声にしか聞こえない。でも、彼らがヒトに生まれ変わっていたとしても、彼らの心は絶対に、この歌声の内容を理解する。絶対に……」

 幸はバイテク蔓草に指示を出した。

 「バイテク蔓草。古代文字9の手紙を、アイプラットホームで配信」

 幸の指示を受けたバイテク蔓草から蔓が伸び、蔓先についた葉が細胞分裂し、五インチほどの画面に分化した。画面には古代文字であるスペクトログラムが映っている。

 幸は、仰ぎ続けている兎兎と同じように、日が沈みかけた空を、願を懸けるように仰いだ。

 「彼らの再会よ」

 呟いた幸の後に続くように、画面から鳥の囀りのような獣の咆哮のような歌声が聞こえてきた。

 「君がこれを聴くことはないだろう。されどここに遺すのは、幾ばくもの時を経て、偶然でもこれを聴いた時、必ず君とわれは再会するからだ。約束するよ。どんなに時が経ていても、どんなに遠く離れていても、我は必ず君を見つけ出し、必ず会いに行く。これからずっと、何度生まれ変わってもずっと、我の心は君のそばにいる」

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温羅者/バイオテクノロジー 月菜にと @tukinanito

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