第16話 自然と知ったもの

 重たい空気の中、乱入してきたのは、西夏になだった。

 状況を知らない彼女ば、場を和ませ――。


「あわわわわぁ!! クラゲ! クラゲだ!」


 西夏の目にはクラゲしか映っていないようだ。

 誰かさんと同じで、相当のクラゲ好きのようだ。


「西夏さん! クラゲ好きなの!?」


「昔飼っていたからな。愛南あいなちゃんも好きなのか?」


「うん! 大好き! 世界で二番目に大好き」


「西夏でいいよ。クラゲ好きには、悪いやつはいないからな」


 とんでも理論。

 けど愛南も。


「うん! あいなの事も、愛南って呼んで」


 同じ好きなもの同士で、嬉しそうだった。

 今朝の愛南より生き生きしている。

 そこに水を指すのは悪いが、言わなきゃいけないことがある。


「愛南、ちょっといいか? その、別に嫌だったから、それに触れなかった訳ではないって言うか……」


「うん、分かってる」


「え?」


「もう、わかったよ。わかったから、大丈夫」


 にっこりと笑う愛南。

 水族館内部が薄暗くても、はっきりと脳内に刻まれた。


「それより、なんで愛南がここに居るってわかったの?」


「……それは――」


「愛南! 見て見て! ここ。これが傘だぞ」


「わぁ! 本当だ! きれい」




 同棲するようになってから、日常が変わっていった。

 家にあった一つの部屋には、愛南がいる。

 それだけではなく、日常下で使われる物の全てが共有されるようになった。


 共有される中の一つ。

 テレビ。

 俺はあまり録画機能を使わない。

 見たいと思う番組がないからだ。


 けど愛南は違う。

 たまにであるが、録画機能を使っていた。

 何を録画しているのか気になった俺は、こっそりその番組を見た。


 クラゲ集だった。

 それも録画した全ての番組が。

 確信した。

 愛南はクラゲが好きだと。


 自然と知ったんだ。

 愛南の好きなものを初めて知った。

 その行動が、今日生きた。

 本当に運が良かった。


「よし! みんな揃ったって事で、イルカショーでも――」


「「だめ! クラゲみる!」」


 二人同時に却下された。

 結局、俺が行きたかったイルカショーは、見れずに終った。

 確かに、クラゲも可愛かったけど。

 まさか永遠と見せられるとは思わなかった。



ーーー



 水族館からの帰り。

 愛南はお見上げで買った、クラゲの御守を持ち、先に行ってしまった。


 残った俺と西夏。

 間は少し離れている。


「このあいだは、ごめん……」


 先に口を開いたのは、西夏だった。

 このあいだとは、四日前のことだろう。


「なんのこどだ?」


「――! まさか、忘れて――」


「いやいや、四日前の事だろう? 忘れてない……!」


 西夏の顔が赤くなっていた。

 夕日の赤ではない。

 西夏の赤だった。


「西夏が謝ることないだろ。俺がやりたくてやった事だから――」


「〜〜〜ッ!!」


 看病。

 罪滅ぼしだと思ってやったこと。

 やりたかったこと。

 やるべきだと思ったこと。


 それを素直に言った筈なのに、ますます西夏の顔は赤く染まる。


「そうか……。そうなのか……」


「そうだ。だから、気にするな」


「わかった……。それと――」


 西夏は一度立ち止まる。

 それに合わせて同じく俺も止まる。


「私が、あんなこと頼むのは、北馬だけだぞ。他人にあんな恥ずかしい格好は見せた事ないからな!」


 ――そして走り出す。


「ちゃんと責任、取れよ〜!!」


 そう言いながら、愛南の方へ走って行った。


 俺は、頬をかきながら、夕焼けの赤を見た。

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昔男だと思って遊んでいた幼馴染が女だったというラブコメ展開だが、俺には14歳エロJCの許嫁がいる 檸檬 @Remon_need

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