青葉は夜に咲くらしい
たくあん漬け
第0話:緩やかな滅びの中で…
生まれた時から、ここしか知らなかった。ここが、ここだけが『世界のすべて』だと思っていた。
朝露に濡れる草々、髪を抜けるあの青い風、
溢れんばかりの光を湛えた田んぼの水も…ここにある何もかもが、この世界を形作っている、とばかり思っていた。
私は祖父母にいちばん懐いていた。両親が共働きということもあり、朝早くから日が暮れるまで、祖母には本を、祖父には畑あそびを教えてもらった。
私は夏が好きだった。うだるような日差しも、砕けたスイカの破片も、静かに散る線香花火の小さな火球も、未だに脳裏に焼き付いて離れない。
あの街を離れてもう5年になる。祖父母はまだ、あの畑を耕しているのだろうか。朝早くから祖父を連れ回して、カブトムシを捕まえたあの森を、まだ手入れしているのだろうか。
私は、またしても救うことが出来なかった。この地に生まれ、この地に育てられた母の口癖である「ここもすっかり寂れちゃったなぁ…」が、時々不意に私の心を締め付ける。
これからお話しするのは、この地『常石市』と私、そして私の友人とで紡いだ、決して忘れることのできない、鮮やかで、それでいてどこか物寂しげなあの夏の思い出…
青葉は夜に咲くらしい たくあん漬け @Takuan-zuke
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