第32話 露木孝介の婚約者(クロエ視点)

 クロエは走り去った仁を見て呆然としており、孝介はクロエに問うた。


 「クロエ、あの仁って人だけどどう言う人物なんだ?」


 「坂本君とは同じ中学の同級生でして、あることがきっかけで暴力的な一面が目立つようになったんです……」


 「元々はそんなに暴力的じゃなかったってこと?」


 首を傾げながら孝介はクロエに問うと、クロエは首を横に振りながら口を開く。


 「口調はそんなにいい方ではありませんでした。何かと喧嘩っ早く手が出そうになったりと色々問題ばかり起こす人でしたけどあそこまで過激ではなかったんです」


 クロエはそんな中学時代の仁の話を孝介に語る。




 ***


 クロエは教室で大人しく本を読んでいた。


 男子からの人気もあったからなのか、他の女子から嫌がらせを受けることは日常茶飯事だ。


 「クロエってさ、ヤ○マンらしいよ」


 「え〜、マジ?確かに男子からの人気もあるしホテルの近くで援助交際とかもしてるって噂あるくらいだしね」


 他の女子達は有る事無い事好き勝手に言いながらクロエを陥れようとしていたのだ。


 「ねぇ、その髪の毛マジでムカつくんだけど切っていい?」


 女子はそう言いながらクロエの金色の髪の毛を強く引っ張る。


 「嫌です!きゃっ、痛い!」


 「金髪になんか染めて可愛いとか思ってるの?」


 「うちハサミ持ってるから丸坊主にしない?」


 「それいいねぇ、こんなヤ○マン女にあたし達が制裁を加えるにはちょうどいいかもねぇ」


 「辞めてください!離し……」


 「うっせぇんだよ!お前みたいに援助交際とかしてるような売女がムカつくんだよ!」


 女子は他の生徒達がいる前でクロエに怒鳴り髪の毛を切ろうとした。


 そんな時だ。


 長い金髪に碧眼の男子と、黒い長めのリーゼントヘアに素顔が分からない程にアイメイクを施している男子がその女子達の方へと向かい、ハサミを持っていた女子の手を強く握りしめた。


 「お前らさ、そんな嘘ついて楽しいの?」


 リーゼントヘアの男子は睨みつけながらそう言う。


 「はぁっ?お前に関係ないだろ!つかお前、あいつのこと好きなの?」


 「好きとか嫌いじゃなくてそうやって自分達の人気得ようと嘘の噂流してどん底に陥れようとしているのが気に入らんだけたい」


 「いやいや、こいつマジで援助交際とかしてるヤ○マンだし!お前も体目当てなんだろ?」


 「お前バカか?第一俺は三次元の女になんか興味ねえぞ」


 クロエは中学生でありながらもグラマラスボディの持ち主でもあった。


 そのせいか、このように援助交際をしているとでっち上げられたりと散々な目に遭っていた。


 「つか、その頭古いしダサい!自分ではカッコいいとか思ってるんだろうけどマジでダサい!女子にモテないのも納得」


 「マジそれな、チョーウケる~」


 女子達がリーゼント頭の男子の髪型を貶したその時だ。


 その男子は髪型を貶された怒りを堪えながら拳を強く握り、歯を食いしばっていた。


 「何?もしかして殴る気?女子を殴ったらお前行き場失くすよ?」


 「テメエらなんか殴る価値なんかないさ。ほら、行くぞ……」


 クロエの手を握りながら別の場所へと誘導しようとした刹那、女子達は怒声をあげる。


 「おい、逃げてんじゃねぇぞ!この売女に用があるんだよ!」


 「黙れジャ〇〇のメス豚、この女が売女である証拠はあるのかよ?」


 「「「そっ、それは……」」」


 リーゼント頭の男子は女子達を睥睨し、それに動揺した三人の女子は言葉を失う。


 「……てます。私やってます……」


 クロエは小声で女子達がでっち上げた噂を否定せずにそう言う。


 「やっぱりしてんじゃん。最初からそう言えばこんなことには……」


 「オイ、コラァッ!」


 リーゼントヘアの男子は床をドンと勢いよく踏みつけ女子の胸ぐらを掴み顔面にパンチをお見舞いした。


 女子は床へと倒れ込み、蹲りながら頬を両手で覆いもがき苦しんでいた。


 それを見ていた二人の女子は怯え、「きゃぁ~、人殺しぃ~!」と叫びながら教室を出て言っていた。


 「仁、流石に殴るのはまずいんじゃねぇのか?」


 「何言ってんだよ丈、やっちまったもんはしょうがねぇだろお前?それとクロエだっけ?さっさとバックレようぜ」


 「ふぇっ?」


 クロエは変な声を出しながら仁と丈という男子と一緒に学校から逃げ出していた。


 この二人の見た目は不良なのに何故こんな冴えない自分に優しくしてくれるのか?クロエは不思議に思っていた。


 「あっ、あの……坂本君?と綾野君?はどうして私を庇ってくれたんですか?」


 「「……んっ?」」


 「だって……別に二人にとっては関係ないことでしたので」


 クロエはオドオドとしながら二人に問うと、「むしゃくしゃしてたから」と丈は答え、「ああゆうゴミは放っておけないから」と仁は答える。


 「正直に言うなら君みたいな本当の美少女がジャ○○のメス豚に虐められているのを見ていられなかった」


 「事実、仁があのブスを殴らなかったら俺が殴ってたがね」


 仁と丈はクロエを庇った理由を明かす。


 「そんな……私なんて全然可愛くないですよ……根暗でとってもネガティブだし……そんな私を庇ったって坂本君達が……」


 「またあいつらが虐めてくるようなら俺達がまたぶちのめしてやるよ。次は精神崩壊するレベルで焼き入れてやってもいいがね」


 「おいおい丈、売春宿にぶち込むとかじゃダメなのか?」


 「それもいいねぇ、俺の親父とジョージの親父さんに頼んでみるか」


 仁と丈が不気味な会話を始め、クロエは内心(この人達ってもしかして裏社会の人間なのかな?)と不安に思っていた。




 次の日、当然のように教師に呼び出された。


 クロエ、仁、丈と三人の親は校長室へと呼び出され、担任の教師に生徒指導、校長が問い詰めていた。


 「坂本、お前昨日何もしていない女子を殴ったそうだな?」


 生徒指導は仁を睨みつけ、「あの売春婦はクロエの髪の毛を無理やり切ろうとしてたんだぜ」と説明をする。


 クロエの母親に関しては「うちの子のせいで……」と仁、丈とその二人の親に謝罪をしていた。


 よく見るとクロエの頬はかなり赤く腫れあがっており、母親から何度も強くぶたれたのだろう。


 「彼女はそんなことしていないそうだ」


 生徒指導は仁の話は一切聞く耳持たずだ。


 「それに、俺を呼び出すのは分かるが丈は全く関係ねぇんだよ」


 「仁!ちょっと……」


 反抗的な態度を取る仁を母親は必死に諫めていた。


 「俺もやりました。あのジャ○○は無抵抗なクロエに暴行を加えようとしたから一緒にボコボコにした」


 丈は少しでも仁の罰を軽くしようと必死に庇う。


 ドンドンとノックが鳴り響き、「失礼します」と入室した他の教師が担任と生徒指導、校長にヒソヒソと小声で話していた。


 すると担任と生徒指導の表情が一気に変わっていた。


 「たった今、彼女の御両親から連絡がありましてですね……そちらのクロエさんを虐めていたことを告白されました……ただですね……」


 生徒指導が続きを言おうとした刹那、校長が「今日はこの辺りで……」と止める。


 「せっかくの機会ですから……」


 と生徒指導は校長の方を振り向き話を再開する。


 「お宅のお子さん達がこうして世間から誤解されているのもまた事実なんですよ」


 「ウチの子の何処に問題が?」


 丈の母親は生徒指導に疑問を問いかける。


 「煙草に服装、校内暴力、生活態度に不良であったりと……」


 「ですけど、それだけで全人格を一方的に決めつけてもいいのでしょうか?それに、大人の言っていることが必ずしも正しいというわけではないでしょう?」


 そのことに反論できない教師達は顔を俯かせながら沈黙としていた。


 クロエはそれからも仁と接するようになり、仁は疎ましく思っていたのか、ぶっきらぼうな態度を取っていた。


 「坂本君ってどのような女の子が好みなんですか?」


 「二次元の女の子」


 真剣に質問をしているのに仁は真面目に答えを返すつもりがないのか二次元の女の子以外には興味ないと高を括る。


 「もう正直に答えたらどうなんだ?」


 丈がそう言うと仁は肩を竦める。


 「笑わないって約束してくれるか?」


 仁はクロエから視線を逸らしながらそう言う。


 その問いにクロエは笑顔で頷く。


 「はい」


 「君が小学生の頃結婚の約束までした子に似ていたからだよ。とは言っても最近まで忘れていたがね……」


 仁は結婚の約束をしていたことに罪悪感を抱いていたのかそれ以上は言いたがろうとはしなかった。


 「坂本君は今でもその子のことが好きなんですか?」


 クロエは気になったのか仁に問うた。「どうだろう……」と仁は曖昧に答える。


 「俺は小学校卒業する前にそんな約束をしておきながら中二になってここ最近まで忘れていたんだ。俺に彼女を好きでいる資格は多分ないと思う……」


 「そういうわけだ。クロエは仁に好意を寄せているんだろうけどね」


 「いっ、いえ……私なんかが坂本君を……」


 クロエは赤面になりながら首を横に振る。


 「おい丈、茶化すなよ!」


 「お前が鈍感すぎるんだよ。俺もそうなんだけどな」


 丈は微笑しながら仁に軽口を叩く。



 *****************************


 「なるほど、クロエと仁にはそういう過去があったのか……」


 孝介はクロエの中学時代の話を聞きながら溜め息を吐く。


 「はいっ、今の私がいるのは坂本君のおかげと言っても過言ではありません……」


 「クロエは今でも仁のことが好き?」


 「どうでしょう……もし私が今坂本君のことが好きだとしても私は坂本君のフェイバリットにはなれないと思います……」


 どこか悲しげな表情をしているクロエは弱々しくなっており、孝介はクロエの肩に両手を乗せる。


 「ハッキリと好きだと言わないのは俺と婚約関係を結んでいるからってのもある?」


 「分かりません……今の私は孝介さんと婚約関係を結んでいるわけで余計な感情を持ち込まないようにしていますので……ただ、敢えて言うなら坂本君は私以上にいい女性と出会っているのは間違いありません」


 「それってもしかして……」


 「――あの人で間違いないと思います……」


 あの人とはいったい誰なのか?クロエは知っていながら敢えてそれを答えようとはしなかった。


 そして、孝介もそれ以上聞き出そうとはしなかった。

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主役になれなかった少年は美少女に恋をする JoJo @jojorock

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