第31話 露木孝介の婚約者(仁視点)

 夏休みに入る数日前の出来事だ。


 仁は露木孝介の婚約者の望月クロエは体育館裏で福海に絡まれているのを目撃し、そのまま物陰に隠れて見ていた。


 偶然体育館を通りかかった仁は福海がしつこくクロエに迫っていた為、仁は制裁を加えようと考えていた。


 「……なぁ、俺と付き合ってくれない?彼女がダメなら友達からでも……」


 「何度も申し上げているとおり私はあなたと付き合う気はありません!」


 「そんなこと言うけどさ、内心では俺と付き合いたいんだろ?」


 物陰に隠れて聞いていた仁は何処からそんな自信が湧くのか理解できずにいた。


 あそこまで自意識過剰になれるのはもはや才能だろうか?仁は自分の容姿に自信が持てずにいた。


 「ルーシーとかいう女といい、お前といい、何で俺の思い通りにいかないんだ!」


 「はっ、放してください!」


 福海はクロエの華奢な腕を強引に引っ張る。クロエは必死に抵抗するも、スポーツで鍛え上げた福海の力には抗えなかった。


 「おい、ゴミヤロー」


 仁はこれで福海と関わるのは二度目だ。


 「なんだぁてめえ?って、坂本仁!」


 「そうだ、まだてめえ懲りずに女漁りしていたのか?」


 「ほざくな、今の俺は昔の俺じゃあねぇ!」


 福海はクロエを地面に押し飛ばし指をバキッ、ボキッとわざとらしく鳴らす。


 「お前あの時、俺に勝ったとでも思っているのか?」


 「何?」


 「あの時はお前が綾野家と友石家の人間と関りがあったからあのような失態を冒してしまったが今回はお前を思う存分いたぶってやるぜ」


 仁はポケットに入れていた煙草を取り出し、煙草を口に咥えライターで火を着ける。


 「お前は何か勘違いをしていないか?」


 「何を勘違いしていると?」


 「お前の失態は友石家と綾野家の所為だと言っているけどあれは自業自得だろ?それにお前、交際を迫ってたのにその相手を地面に押し倒したとかまさに小者だな。俺はだ。俺に手を出すということはお前はこの前よりもひどい思いをすることだぜ?」


 「そんなハッタリが俺に通用するわけないだろ?お前が『坂本龍馬の隠し子の子孫』だ?笑わせるぜ」


 福海は仁の発言を信用していないようだ。


 「かかってこいよ、お前調子に乗っているようだから真面目にぶちのめしてやるよ」


 「ハッタリかまして泣きべそ掻いても知らねえぞ!」


 仁に急接近した福海は拳を振り上げ殴りかかる。


 その時、体育館裏で銃声が鳴り響いた。


 福海の額は内出血を起こしており、福海は地面に倒れ込んでいた。


 仁は愛用している四十四口径の大型リボルバーを瞬時に抜いて発砲していたのだ。


 「きっ、貴様!銃を使うなんて卑怯だぞ?」


 「うるせえな、てめえはルーシーだけでなく中学の頃の同級生のクロエを傷つけた。てめえを殺さないようにゴム弾で済ませているんだ、ありがたく思え」


 福海が話をしている間に仁は間合いを詰め、仁の蹴りが福海のみぞおちに命中。


 「げほっ、げほっ……」


 仁の蹴りで呼吸困難になった福海は両手で腹を押えながら膝を地面に着く。


 「これはルーシーの分だ。そして次がクロエの分!」


 福海が立ち上がった瞬間、仁はつま先で福海の脛を蹴る。


 地面に倒れ込んだ福海はあまりの激痛にのたうち回る。


 「うっ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 「痛いだろうなぁ、俺の履いているエンジニアブーツのつま先には鉄が入っているからなぁ」


 仁はいつも以上に怒りを露わにしていた。


 クロエは仁にとっては中学の頃、侑以外の女性でまともに会話をしてくれたからだ。


 「ルーシーとクロエの分は済ませたな、最後は完全に俺の八つ当たりだ」


 ゴミを見るような目で福海を見下ろしていた仁は44マグナムを全弾撃ち尽くした。


 仁が発砲したゴム弾は全て福海の急所に命中しており、ほぼ全身打撲を負っていた。


 「クロエ、大丈夫か?」


 地面に倒れたクロエに手を差し伸べた仁は心配そうに問うた。


 「はい、坂本君は見た目だけでなく性格まで変わったと思いましたけど相変わらず優しいんですね……ただ、必要以上に報復を与えすぎでは?」


 必要以上に制裁を加えた仁にクロエは苦言を呈した。


 「確かに、クロエの言う通りだな。もしもルーシーがこのことを知れば君以上に怒りそうだな……」


 仁の表情はどこか「やりすぎた」と後悔していたようだ。


 頭に血が上りすぎた仁は親友のジョセフ同様一度怒ると何をしでかすか分からない。


 その性格が原因で問題を起こしては親に怒られていた。


 医師からは発達障害の疑いがあると診断されたこともあるほどで、仁とジョセフは教師からも問題児扱いされていた。


 「クロエ、大丈夫か!」


 後ろからクロエの名を叫ぶ少年が息を切らしながら駆け付けてきた。


 「孝介さん……」


 「クロエ、君の彼氏か?」


 「いえ、そのっ……何と言いますか……」


 「もしかして婚約者?」


 「「どうしてそれを?」」


 仁がそう言うと孝介とクロエは同時に声を出す。


 「いやね、適当に勘で言っただけだよ?俺は別に二人が婚約者だろうと夫婦だろうと首突っ込む気はないけどね、めんどくせぇからな」


 「坂本君は『坂本龍馬の隠し子の子孫』と言っていましたけど……」


 クロエは仁の発言が気になっていたのかそのことを仁に問うと孝介は目を見開く。


 「あぁ、確かに俺は坂本龍馬の隠し子の子孫だと言ったね。


 仁の発言が嘘だと分かるとクロエと孝介はポカンと口を開けながら唖然としていた。


 「嘘なんですね……」


 「えっと、君は確か紫龍と同じクラスの……誰だっけ?」


 クロエと孝介はズコーっと昭和の漫画のようにこけた。


 「自己紹介まだだったね、俺は孝介。露木孝介って言うんだ。失礼かもしれないけどそのサングラスは傷か何かを隠してるのかな?そうでなければ外していただきたいのだが……」


 孝介はサングラスを外すよう仁に要求すると、仁は渋った表情をしつつもゆっくりとサングラスを外した。


 「君は知っているだろうけど俺は坂本仁、サングラスをしているのは俺のファッション、プロパガンダと言ってもいい」


 そんな厨二病的発言をした仁を見た孝介は唖然としていた。


 「はっ、はぁ……」


 「また何かあったら俺に言うといい……」


 仁はそう言い残しながら走り去る。


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