第30話 夏休み、そしてピーマンは美味しかった

 ミス・ミスターコンも終わり、数週間が過ぎた。


 夏休みに入り、ルーシーは帰省するわけでもなく、仁と一緒のマンションで屋根の下で生活していた。


 仁は自室に籠り、侑の小説の最新刊に向けてのイラストを描いていた。


 「ふぅ、イラスト配信動画とかのネタにでもするか」


 仁は配信用の機材をスタンバイし、イラスト配信動画を取り始めた。


 以前、イラストレータージョルノ名義で配信用アカウントも作成しており、ツイッターに動画を配信することを告知し、動画を配信していた。


 基本的に仁は無言で黙々と描いているだけだが、それを見ている視聴者達は大絶賛していた。


 こんなコメントもあった。


 『ジョルノ先生っていつも金髪美少女描いてますよね』


 『金髪美少女以外の絵も見てみたいなぁ……』


 等と言ったコメントもあった。


 「まぁ、俺金髪美少女好きだし」


 そう言うと視聴者達は『先生マジウケる~』と言ったコメントが殺到した。


 動画配信しながらイラストを描くというのは思っていたよりも大変だ。


 会話のネタを絶やさないためにも喋り続けなければいけない為、めんどくさがりの仁にとっては苦痛だ。


 何だかんだで描き終えた仁はそれと同時に配信終了し、残りの商業用のイラストはまた後で仕上げることにした。


 ミス・ミスターコンの結果は、仁とエミリーペアは準優勝、仁は個人では3位、エミリーに関しては優勝だ。


 ペア演技に関しては仁はジョニーと一緒にラーメン屋に行って不在だった為、ジョージの提案で急遽エミリーの彼氏でもあるジョーが替え玉出場をする羽目になったのだとか。


 彩音のメイク技術が凄すぎる為、顔立ちこそ誤魔化せたが、瞳の色の違いで替え玉がバレる恐れがあり、カラーコンタクトもない状態では失格になる為、サングラスの着用で何とか対応したのだ。


 公になることはなかったが、仁はジョニーとラーメン屋で食べ終えた後、自宅へと帰り自室で居眠りをしていた。


 目が覚めるとそこにはルーシーが仁王立ちで仁の部屋にいたのだ。


 替え玉出場させたことについてではなく、ラーメンを食べに行ったことに対して怒っていたのだ。


 耕陽とありあのペア演技は優勝、個人演技だと耕陽は一位、ありあは準優勝だ。


 見えないところで努力をしていたのだろう。


 しかし、仁は途中で帰った為、耕陽が優勝するとは思ってもいなかったようだ。


 ミス・ミスターコンから3週間は過ぎただろうか、仁の学校は夏休みとなっており、侑の小説の挿絵のイラストを描いたり、バンド活動の為の曲の練習をしたりとやりたいことをやっていた。


 「やりたいことは今のうちにやっておかないとな……どうせこんなクソみたいな人生だ、普通に社会人になったら地獄行きなんだからよ……」


 仁は大人になりたくないと思っていた。


 今こうやって音楽やイラストに集中しているのもそんな腐敗した社会の中で社会不適合者認定を受け、爪弾きされてうつ病になりたくないからだ。


 侑の小説でイラストを担当しているとはいえ、いつまで描き続けられるか分からないからだ。もしかしたら途中で打ち切りになってイラストの仕事が来なくなるかもしれない、そんな不安に駆られていたのだ。


 イラスト配信を終えると、昼が過ぎていた。


 せっかくの夏休みというのにどこに出かけるわけでもなく自室に籠ってイラストを描いていたため、空腹だったのだ。


 「腹減ったなぁ、朝食べてからずっとイラスト描いてたらこんな時間になったしルーシーもいる頃だろう」


 仁は自室を出てリビングへと顔を出すとエプロン姿で料理をしているルーシーが「どうしたの?」と首を傾げながら問うた。


 「そろそろ昼食の時間と思ってね、何か手伝うことはあるかい?」


 「大丈夫よ、もう少しで終わるから」


 ルーシーはどこか嬉しそうな表情でそう言う。


 何かいい出来ごとにでも巡り合ったのだろうか、ルーシーの表情はお見合いした日から段々明るくなりつつもツンとした態度は相変わらず残っていた。


 「俺と同棲始めてから表情良くなったよな」


 仁は思ったことをうっかり口に出す。


 「ばっ、バカなこと言わないでよ!別にあなたと一緒にいるのが嬉しいとか思ってないんだからね……」


 ルーシーは紅色に頬を染めながら視線を逸らす。


 この表情が見たかったのだ。


 興味がなさそうに見えて実はこの生活をどことなく楽しんでいるルーシーを弄り、本音を引き出させようとしている。


 仁の性癖がそうさせているのか、それとも、生粋のツンデレ好きなのかは分からない。


 少なくとも、アニメやラノベに出てくるツンデレヒロインに影響を受けたのは違いないだろう。


 中学の頃、親友の丈に深夜アニメやラノベを一緒に観たり読んだりしており、その中でも兄妹でラブコメをしている作品に出合ってからその妹キャラに惹かれていたのだ。


 兄に暴力を振るうヒロインではあるが、時にはデレたりと乙女な一面があったりと可愛らしさがあった。そんなツンデレヒロインを良しと思った仁はツンデレヒロインと金髪美少女が出る作品を徹底的に漁り出したのだ。


 「そういえば仁のイラストって金髪碧眼の巨乳美少女多いわよね」


 「うん、黒髪の女とかは身近で見るから金髪碧眼美少女を中心に描いてるよって……何で知ってるの?」


 ルーシーが金髪碧眼美少女を描いていることを何故知っているのか?仁は一度もそんな話をしたことがないのに知っていることに驚愕していた。


 「そっ、それはね……そう!侑から聞いたのよ」


 ルーシーは慌てながら上の空を向き侑から教わったことを主張する。


 仁はテーブル席に着き、ルーシーは昼食をテーブルに置き席に着く。昼食は旬の野菜をメインにしたあっさりとした料理であったが、香ばしい匂いが食欲をそそらせていた。


 ルーシーの腕がいいのか、食材がいいのかは分からないが、仁は普段食べない野菜を口の中に頬張る。


 最初はただの野菜としか思っていなかったものが次第に美味しく感じ、「美味しい」と口に出した。


 「そう言ってくれると作り甲斐があるわね……」


 「ピーマンとかは好きだったからさ、また作ってくれるかな?」


 仁は微笑を浮かべながらルーシーに問うと、ルーシーも微笑を返し頷いた。

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