第29話 適当
ミス・ミスターコン当日、何故学校側もこんな人の優劣を決める大会を開くことを反対しなかったのかは謎だが、仁は仕方なく出ている為、乗り気ではなかった。
「仁君、どこか具合が悪いのデスカ?」
エミリーは教室で顔を俯かせている仁に声をかける。
「こうゆう見た目の優劣を決める大会ってめんどくせぇんだよね、俺はルックスとかよくないからサングラスしてないと見られたもんじゃないし……」
サングラスを着用する前は長めのリーゼントヘアにアイメイクを施して容姿を誤魔化しているが、サングラスを着用するようになってからはノーメイクである為、顔を見せたくなかったのだ。
「ルーシーは女の子みたいで可愛い顔立ちしてたって言ってマシタよ?」
「だから嫌なんだよ」
「どうしてですか?中性的な顔立ちって結構人気あるみたいデスけど……」
「白人コンプレックスってやつだな、彫りの深くて男らしい顔立ちに憧れてるからどうしても自分の容姿が気に入らないのさ」
そんな仁の悩みの力にならないエミリーは励まそうにも何も言えなかった。
「二次元の女以外に興味ない俺でも何故かエミリーとルーシー、侑とは普通に自然体で話せるんだよな、女性恐怖症あるのに……」
「それはきっと仁君と顔馴染みなところがあるからじゃないデスかね?」
エミリーは笑みを浮かべ、無愛想な仁の口元が少しずつ緩んできた。
ミス・ミスターコンが開催される体育館は満員になっており、熱気に包まれていたのだ。
校内で行われるコンテストであるため、他校や一般の来客なんてものは来ない。
「それでは、第二回ミス・ミスターコンを開催します!」
すると会場から歓声が広がり、審査員でもある生徒会長は一礼した。
始まったのだ。
仁は控室でエミリーと雑談をしており、アイメイクをしようとし時だ。
「よう、今時間ある?」
後ろを振り向くと聞き覚えのある声がした。
「ジョージ、てかお前また新しい女に変えたの?」
ジョージの後ろにはギャルっぽい女の子が「やっほー!」と軽い感じで挨拶をした。
「あんたが仁、サングラスしてるけどどんな顔してるの?」
その女の子は仁のサングラスを急に外し、神経過敏な仁でさえ追いつけないほどの超反応をしていた。
「へぇ、リーゼント頭にしていた頃は素顔が分からなかったけど結構可愛い顔してるじゃん」
「つかてめえ、サングラス返せよ……」
仁は愛用している四十四口径の大型拳銃を取り出し彼女の額に突きつける。
「わかったから……話をしよう」
冷や汗を掻きながら彼女は仁を諫めようと必死になっていた。
「てか、自己紹介忘れてたわね。あたし
「おう、よろしく」
仁は彩音に言われるがまま、アイメイクを任せることにした。
「それまでは俺が預かっておくから仁は彩音のメイク技術に翻弄されるといいさ」
彩音はアイメイクをする前にスマホを取り出し、シャッター音が鳴ったのが分かった。
「おい、お前何をした?」
再度、仁は彩音に大型拳銃を突きつける。
「いやぁ~、仁の顔って女の子みたいに可愛いからさ。仁のこと気になっている子いるからその子に……」
「消せ」
「はい……」
仁は彩音を睨みつけ、威圧をかける。
彩音はそれからは真面目にメイクをし、仁の顔を見ながらニヤケながらアイラインをなぞっていた。
アイシャドウにアイブロウを施したりと素顔とは程遠い妖艶さがあった。
「どう?これで仁がサングラス外してても素顔分からないんじゃない?」
「そうだな、これなら……って、女の子みたいなメイクにしてどうするのよ」
仁は鏡で自分の顔を見ながら溜め息を吐き肩を竦める。
「私は可愛いと思いますよ?」
エミリーは笑いを堪えながら口を手で覆っていた。
「ジョージ、この大会終わったらマジで殺す」
「ごめんなさい……だからマグナムを……」
仁はジト目でそう言うと、ジョージは冷や汗を掻きながら謝る。
メイクも終わり、舞台袖でスタンバイしていた仁は、顔を極限まで下げながら早く終わってくれないかと願っていた。
「それではトップバッターは――一年C組の坂本仁さん!え~っと、要望欄には『俺の顔をジロジロ見ないでいただきたい』とのことです。一体何のために出場しているのでしょうか?」
MCは首を傾げながら仁の書いた要望欄を読み上げ、観客たちはゲラゲラと笑いだす。
仁は革ジャンに革パンと夏だというのに暑苦しい衣装でコンテストに出ている。
周囲に悪印象を与えるためにわざとこのような格好をしていたのだ。
当然、「暑苦しいんだよ!」「出ていけ!」とブーイングも飛んでいた。
しかし、そんなのはお構いなしだ。仁は顔を上げ、髪の毛を靡かせ、その妖艶さで周囲の観客達を黙らせたのだ。
「おいおい、坂本って女の子だったのか?」
「一応男子の部だよな?」
「これが女子なら告ってたんだけどなぁ……」
そのような声が聴こえてきた。
仁はミス・ミスターコンで何をすればいいのか分からず、取り敢えずただひたすら歩いた。
歩いては止まり、角度を意識した立ち方、ファッション雑誌や音楽雑誌のアイドルのポージングを意識したものばかりだ。
一先ず歩き終えた後、ジョージが仁にギターを渡す。
すると、マーシャルと書いてある大型アンプが設置されており、仁はジョージにギターを渡された瞬間に察した。
(ギターを弾いていいんだな……)
仁はギターを弾き始める。
ハードロックのリフを弾き始め、ペンタトニック、ハーモニックマイナー、ディミニッシュスケールを用いたギターソロを弾き始める。
観客席にいた周囲はぽかんと口を開けて絶句していた。
当然の結果と言えるだろう。いきなりギターを渡されて暴走するかのようにギターを弾き始めるのだから。
ギターを弾き終え、仁は舞台袖へと姿をくらます。
すると観客は歓声を上げ、大反響していた。
「仁、さっきの演奏良かったぜ」
「ジョージ、ここまでするとは思ってもいなかったが……」
「でも、これで優勝できるんじゃないか?」
ドギュッ!と銃声が鳴り響く。
仁がマグナムに装填したゴム弾がジョージの額に直撃し、赤くなっていた。
「俺は優勝する気なんてない。つかグラサン返せよ!」
「はいはい……」
ジョージは仁にサングラスを返し、それを着用する。
「それはいいが、ルーシーちゃんだっけ?少し気を付けた方がいいぞ?」
「どういうことだ?」
「さかも……いや、何でもない……忘れてくれ」
ミス・ミスターコンに出たことで何もすることのなくなった仁は、帰ろうと思ったが、ルーシーの妹でもあるエミリーが次に出るのを思い出した。
「よし、観客席で見るか」
そう言いながら仁は観客席に紛れてエミリーの演技を見ていた。
「やっぱ可愛いんだよなぁ……」
「ってか、仁いたんだ!」
仁の隣からそんな声が聴こえてきた。
「何って、終わったからここで見てるだけだが」
「にしても仁、普通にいるけど大丈夫なの?」
ヨハンは心配そうに仁に問う。
「エミリーの演技終わったら帰るつもりだから」
仁は涼し気な表情でそう言う。
「マジかよ、結果発表とかあるわけだから……」
「めんどくせえからいいよ」
「仁、帰るんならラーメン食いに行こうぜ」
「おお、ジョニーか。いいぜ」
仁の後ろの席からジョニーが誘う。
エミリーの演技が終わり、エミリーは手を振りながら舞台袖へと戻った刹那、仁はジョニーと一緒に体育館を出て行った。
「仁、あの演技カッコよかったぜ。動きとかは適当だったけどギターの腕はだいぶ上がってたし」
「そうか、俺も上手くなったんだな」
仁とジョニーは煙草を吸いながら校門を出た後、ラーメン屋へと向かったのだ。
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