第28話 こんなの認めない!
少年に新しい家族ができるみたいだ。
イギリスにいた頃、両親を事故で亡くした双子の姉妹を養子として引き取ったのだ。
二人の少女はとても可愛らしく、見惚れてしまいそうだ。
双子の姉の方は少年の母親に対してとても反抗的な態度を取っていたからなのか目を付けられていた。
少年は母親から虐待を受ける彼女を守りたいと思う気持ちと、何もできないことに苛まれていた。
そんな彼女を母親はとても嫌っていた。
事あるごとに頬を叩いたり、時には雨の中下着姿で中庭に閉じ込めて中へ入れてくれなかったり、彼女の白い肌は痣だらけになっていたりと無惨な光景を目の当たりにしていた。
父親はその事実を知らない。
知ったとしても何も対処することはないからだ。
父親は仕事以外にも愛人と関係を持っていたりと家庭のことなどどうでもよかったのだ。
自分自身が上手くいけばそれでいい、家庭や家族などは一つの手段にすぎない、そんな冷徹で冷血な人間だ。
そんな父親は少年の生まれ故郷でもある日本で会社を経営しており、イギリスに帰ってくること自体滅多にない。
だからこそ母親は好き勝手に躾という口実を作って彼女を虐待していた。
料理に関してもそうだ。妹の方が料理を作る分には問題なしに食べるが、彼女が料理を作ったときは「不味い!」と怒鳴りつけて一切口にしなかった日もある。
何故母親が彼女にそこまで当たり散らすのかが分からない、少年の実の妹はそんな彼女を怒鳴り散らす声に怯え、部屋へと逃げる。
彼女は女狐、売女、等の罵声を浴びせられていた。
それから月日が経ち、少年は大学へと進学し、彼女達も日本へ来ていた。
そして少年は知ることとなったのだ。
彼女がお見合いをさせられることになるということを。
相手がどんな人物か気になり少年は父親に尋ねる。
お見合いの相手は九〇年代ロン毛ブームを普及させたアイドルのように男性でありながら長髪に亜麻色に染めており、目元はレイバンのサングラスで隠し、ダブルライダースの革ジャンに革パンとお見合いに相応しくない格好をした常識知らずの庶民の人間のようだ。
舐められたものだ……
少年はそんなお見合い相手に苛立たずにはいられない。
従妹とは言え、義理の妹の婚約者がどこの馬の骨とも分からない存在とお見合いをさせるなんて……両親は彼女の将来を、幸せなんて一切考えていない。
その相手は坂本仁という名前のようだ。その相手は博多弁を喋るようで、昔聞いた坂本家の名前を思い出す。
福岡を拠点にしている坂本家は一説によれば坂本龍馬の隠し子の子孫だと言われている。
坂本家は才谷屋という大企業であり、父親の重要な取引先でもあった。
もし坂本仁が才谷屋の坂本家の人間だとしたら間違いなく政略結婚だ。
坂本家は噂によれば死の商人もしているようで、中東やアフリカに銃や手榴弾、戦争に使える兵器を売りつけているとの情報もある。
それだけではない、坂本家は友石財団とも深い関りがあるみたいで、武器商人をしていても何事もなかったかのように生き残れている。
友石財団と坂本家は日本、世界において特別待遇を受けている。
そんな家系の人間に父親も逆らえるはずもなく、生き残るために血のつながりのない彼女を売り払ったのだ。
少年はそして思った。
いつか彼女を坂本仁の魔の手から、神威家を裏切ることになっても守って見せると。
才谷屋の坂本家は強大である上に後ろ盾に友石財団もいる。
坂本仁が才谷屋の坂本家の人間であれば一人では不可能だ。
少年はそう思ったのだ。
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