第27話 一体何者なんだ?

 家に帰れば仮初の婚約者がいて、美味しい手料理を食べることができる。坂本仁は俗に言うリア充になりつつあった。


 そして、亜麻色よりの茶髪に染めていた髪だが、地毛は黒のはずなのにここ最近は亜麻色の毛になっていたのだ。


 (俺の地毛は黒髪の筈なのに染めた時と同じ色のままだ……美容室でわざわざ染めに行く必要は無くなったが、俺の体はどうなっているんだ?俺は本当に日本人なのか?)


 仁は身体の異変により、脳内がパニックを起こしていたのだ。


 瞳の色に関しても、父親も黒目というよりは若干茶色寄りではあるが、仁の瞳はアンバー系に少し赤みがかかった色をしていた。


 仁が産まれるた時には父親は祖父母や兄弟と縁を切って勘当していたため、お正月にお年玉をもらうこともなく、家の事情を詳しく教えてもらうこともなかった。


 小学校入る前まで仁は福岡で生活をしており、小学校に入るころには東京へと移住しており、仁は学校でお正月で祖父母からお年玉を貰ったり年賀状を書いて送ったりする風習とは無縁の生活を疑問に思い始めるようになっていた。


 父親に何度も祖父母や親戚のことを仁は問うも父親である龍二りゅうじは渋った表情で何も答えてくれなかった。


 中学、高校に入るにつれて仁は祖父母や親戚がいるのか気になることは無くなったが、自分が一体何者で、どんな人間なのか、知りたい欲求は残っていた。


 ルーシーを引き取っている神威家は現在、経営難ではあるが一応大企業であることを考えれば坂本家のような下流階級の人間が相手にされるはずもないのだ。


 綾野家や友石家とパイプを持っているとはいえ、それで庶民の家系である坂本家のお見合い話を呑んでくれること自体がおかしいのだ。


 これには何か裏がある、もしかしてだけど、龍二は裏社会に通じる人間だったのか?それとも実はどこか友石家のような財団か何か大きな組織の関係者なのか?益々謎が増えていく一方だ。


 仁が出した陰謀論では間違いなく綾野家の親戚である友石家の力だけでなく、父親が何らかの力を使ったのは事実だろう。


 それが何であって、息子である仁には知る権利がある。知らなければいけない。


 中学の卒業式に仁は「革ジャンできて欲しい」と頼んだら龍二は革ジャンで息子の卒業式に来たりと平然とやってのける人間だ。並みの人間であれば普通に和服か背広を着ての出席をするものだ。


 ただでさえ変り者扱いされているわけだからわざわざにしている必要はなかったのだ。


 仁はロックンローラーであり、それを仕込んだ龍二もまた、ロックンロールとロカビリーをこよなく愛している者であるため、己の信念を貫き通しただけのこと。


 普段アウトサイダーな龍二からは家訓としてこう教えられていた。


 「舐められたら終わりだ」


 これは仁が舐められずに生きていくためには必要なものだったのだろう、龍二は時々、間接的ではあるが過去の話をしてくれることがあった。


 祖父母や親戚の話をすることはなかったが自分自身の話しはしてくれることがあり、小学五年生の頃には煙草を吸い始めたり、中学でリーゼントにしたり学校をサボったりと所謂ツッパリ、今でいうところのヤンキーと呼ばれる部類だ。


 それ以外は何も話してくれなかった。


 好きな映画のジャンルとしてはアクション映画に暴力映画を好んで見ていたようだ。


 暴力映画の義理人情などに憧れを抱いていたからなのか、知人の飼っている猫が行方不明になった際、ボランティアで猫を探したりなどもしていた。


 道に迷っている年寄りを送ったりと人間性はそんなに悪い方ではないことは仁も認めていたが、妻子持ちでありながら他の女性に目移りしがちな部分は仁にとっては反面教師だ。


 仁が龍二や親友の綾野丈の影響でリーゼントに革ジャン、ブーツを着用することに母親も溜め息を吐いたりとかなり呆れられていた。


 噂によれば、紫龍のクラスの男子も仁と同じようにお見合いをしていたようだ。


 露木孝介もハーフかクォーターの美少女とお見合いをし、婚約関係を結んでいた。露木孝介の家系は大企業でアメリカ政府や日本、裏社会にも発言力があるとも噂されている。


 仁はジョージに露木家の情報を得ていたが、友石財団と比較するならば世界に影響を与えるほどの力はないそうだ。


 露木家が婚約を結んでいる家系はどういう因果関係か、神威家とも深い繫がりあり、露木家の婚約者の家は神威家同様経営難のようだ、そして露木家の御曹司と婚約を結んで融資を受けていることを考えると坂本家が婚約できる時点でなのだ。


 ルーシー同様、その少女も養子であるとのことだ。


 相違点はルーシーはイギリス人、その少女はハーフかクォーターってところだ。


 それだけでも大きな違いが出てくる。


 「何ボーっとしているの?」


 ルーシーは首を傾げながら仁に問うた。


 「ごめん、少し考え事をしていたんだ……」


 「早く食べないと冷めちゃうわよ?」


 仁は慌ててルーシーの手料理を口の中に頬張る。


 いつにも増してルーシーの手料理は食べ応えがある。


 洋食だけでなく、和食も作れる才女なのだから。


 「それで、何を考えていたの?」


 夕食を食べ終えたルーシーは仁に尋ねる。


 「俺が何でルーシーとだよ」


 「それは仁が指名したからでしょ?」


 「そうは言ってもルーシーを引き取っている神威家は今は経営難でも仮にも大企業だぜ。そんな大企業の令嬢様をわざわざどこの馬の骨とも分からん庶民の人間と婚約させるか?」


 「私はあの家の中では腫れもの扱いされているからね、誰と結婚しようと関係ないんだと思うわ……」


 ルーシーは顔を俯かせながらそう言う。青い瞳は曇り、表情はとてもいいとは言えなかった。


 「義兄がいるんだけど、彼には知られたくはない……」


 「兄貴がいたのか」


 「うん、義兄は正直何考えているかは分からないけど私のことを気にかけてくれていたの。その彼が私と仁が婚約したことを知れば間違いなく止めると思うの」


 ぼそぼそと弱弱しい声でルーシーは言う。


 「だったらさ、それでいいじゃん」


 「いいわけないでしょ!」


 軽はずみな発言をする仁にルーシーは声を張り上げる。


 「あの人は義母から虐められるのを止めに入ることもあった、それを義父に報告して改善したかと思えば次第にエスカレートして『君は俺が守る』とか言ってたの……でも、私はそんな彼の言葉を信用できない!」


 義兄はルーシーを守ると言いながらも火に油を注ぐ行為をしたことでさらにことを悪化させてしまったようだ。


 そのことにルーシーは不信感でいっぱいだったのだろう。


 夕食を食べ終えた仁は立ち上がりルーシーに近づいた。


 「安心しろ」


 仁はルーシーの頭を撫でながらそう言う。


 「え?」


 「いくら仮初とはいえ、婚約者を守るのは俺の役目だ。だから悪い虫が付かないように俺が守る、それが俺の人道だ」


 「べっ、別に助けてなんて言ってないんだから……でも、ありがとう……」


 頬を紅色に染めたルーシーはツンとした表情をしつつもデレ始める。


 「ミス・ミスターコンなんだけど、エミリーをしっかりエスコートしてあげて……ジョー君の代わりに頼りに出来るのってあなただけだから」


 「分かった、めんどくせぇがな」


 ミス・ミスターコンに出ること自体はめんどくさいと思っていたが、エミリーをエスコートする以上、気を抜けるものではなかった。

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