実存は本質に先立つ、はずなのに……
- ★★★ Excellent!!!
湯山玲子『女装する女』(新潮新書、2008年)の序文に、
「男性と違って、女性には『人生のどんでん返し』や『試合中のルール変更』が無数にふりかかる。これら、アイデンティティの在り方にも大いに関係するような過酷な現実が、まるで、ロールプレイングゲームの敵キャラのように、次々と若い女性を襲ってくるのだから、おのずと知恵や対応スキルも身に付くというものである」(pp.3-4)
とありますが、本作はまさにそういう不条理を描き出しています。
世間では「ありのままが良い」とか「自分の気持ちに正直であれ」とか「本当の自分をさらけ出せ」とか、よく言われます。
しかし、女性がセクハラを拒否したとき、その人や女性全般を悪者にしようとする人が多いのも、この社会の現状。
部下・上司、妻・夫、母親・父親といった「役割」ではなく、生身の身体と感情を持ち、固有の人生を歩む「人間」として、お互いを尊重する社会を作っていくことが、女性や性的少数者だけでなく男性にとっても「生きやすい社会」を作っていくことにつながる、そういうことを考えさせてくれる作品です。