人間は経験を積むことで成長する。……どこへ? どこへ成長するのだろう?

 全43話というのを見てためらう読者もいらっしゃるかもしれませんが、1ページ辺りの文字数は決して多くありませんし、むしろ細かく区切られているおかげで読み進めやすいと思います。しかも、読んでいただければ分かりますが、本作が細かく区切られていることにはちゃんと意味があります。

 本作は間違いなくディストピア小説ですが、優れたディストピア小説の常で、現代を生きる我々にとって、作中世界は決して他人事ではありません。むしろ、我々は望んでこういったディストピアへと突き進んでいるのではないか、そんな疑念さえ芽生えます。
 我々の世界は間違いなく、物質的には豊かになってきました。昔は庶民には手の届かない高級品だったにもかかわらず、誰もがパソコンを持ち、携帯電話を持ち、スマートフォンを持つようになりました。お腹いっぱい食べられるのが幸せな時代から、美味しいものを食べる時代へ、オシャレなものを食べる時代へ、他人がうらやむものを食べる時代へと変わりました。しかし、この物質的豊かさの中で、我々は幸せになっているでしょうか。日々の生活の中に精神的な余裕、あるいは「ゆとり」はあるでしょうか。自分はかけがえのない存在だと信じられるでしょうか。不幸を嘆く人に対して、「生きる価値のない人間などいない」と、心の底から言えるでしょうか。

 人間は経験を積むことで成長する。……どこへ?

 本作が投げかける問いは、現代日本を生きる我々にとって重い意味を持っていると思います。
 ぜひ、ご自身の目で、本作の世界を確かめてみてください。