奇抜なアイデアから生み出された、オリジナリティがあふれすぎている「異世界」の物語でありながら、読み手を置いてけぼりにしないように工夫された文章により、非常に読みやすい作品となっている。
作者はさぞかし苦労しただろうが、それに見合うクオリティの小説になっている(その質に対して評価が追いついていないのは、一読者として少しさみしい)。
特筆すべきは、固有名詞の選び方の巧みさである。この工夫により、ぐっと読みやすくなっているだけでなく、寓話的かつ神話的な雰囲気を作品に与えている。
その上で諸々のバランスをはかり、寓話的過ぎず、神話的になり過ぎない配慮もなされている。
様々な生物が絶滅の一途をたどり、人間と豚とキャベツの三種のみが残された遠未来。この世では豚を上手く管理した者が権力を握り王として君臨するように。しかしそんな人間の営みをあざ笑うがごとく、野豚の大群が人類最大の国家「豚王国」を飲み込もうとしていた……。
あまりにシュールすぎる設定で、あらすじだけ見ると出落ちのような雰囲気も漂ってくる本作品。しかし、本作の最大の魅力はこの設定に負けない強い個性を持つキャラクターたち。冒険古生物学者を名乗り、過去の動物に関するでたらめをまくし立てる吉田ロンドン。子供の頃からわがまま三昧で、気に入らない部下は即処刑し思いつきで法を作っては民を苦しめる、暴君・豚王。そんな豚王の一人娘であり、誰かと恋に落ちるたび父にその関係を引き裂かれ深い恨みを持つキャベツ姫。
アクの強い登場人物たちが思うままに行動するせいで、物語はラブロマンスあり、革命あり、幽霊騒動あり、と人間たちの間だけでも混迷を極めるのに、そこに自然災害レベルの野豚まで関わってくるから物語はまさにカオス。劇中で起きていることはわりとシリアスなはずなのだがコミカルな語り口もあってさくさく読めるし、生物がほとんど滅んだ世界ならではの独自の文明描写も楽しく、他に類を見ない世界を描き出した一作だ。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)