クマモトケンミン、ロウジョウセヨ
無月弟(無月蒼)
クマモトケンミン、ロウジョウセヨ
2021年4月1日。突如として佐賀県が独立した。
佐賀県と言えば、かつてはあるバラエティー番組でとったアンケート、『九州で一番メジャーな県はどこ?』で、一票も入らなかった県である。
九州ではない山口県ですら一票入っていたこのアンケートで0票だった事。しかもその事に対して一言のいじりも無く番組が終了した事に、怒りを覚えた佐賀県民は多いだろう。
しかし、そんな佐賀県が独立。新しい国の名は、『肥前さが国』。
これには今まで佐賀県をあまり意識していなかった日本国民も、「佐賀県民やるなあ」と、ちょっとした話題になったものだ。
ツイッターで『佐賀県』がトレンド入りするにはあと一歩及ばずという微妙に低い話題性ではあったものの、それなりに話題にはなった。
しかし、事はそう単純ではなかったのである。
実はこの独立の裏には地球外生命体、アンドロメダ銀河系のゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人の陰謀があった。
彼らは佐賀を乗っ取り独立させ、そこから徐々に地球侵略を開始するという、恐るべき計画を立てていたのだ。
この事実を知った各県は、次々と対応を開始した。
例えば神奈川県は、『横の山国』として独立し、福岡県では秘密結社『キタキュウ』がひそかに行動開始。また福島県では、『ふくしま補完計画』が進められた。
こうして4月1日に始まった嘘のような出来事は、とんでもない広がりを見せていたが。そんな中、佐賀県と同じ九州にある熊本県はどう動いたか。
答はこうだ。
熊本県民は『肥前さが国』の侵攻に備えて、籠城策を取ったのである。
籠城と言ってもどこに? 熊本城に立てこもるつもり? いいえ違います。
生憎熊本城は現在修復中。とても籠城なんてできねーよって状態なのだから。
県民たちが籠城先に選んだ場所。それは熊本県南部に位置する、人吉という市だった。
人吉市。四方を山々に囲まれたそこは、かつては陸の孤島と呼ばれていて。九州高速道路が通る時は、工事の最大の難所と言わしめた土地である。
人吉から八代まで続く高速道路には、何とトンネルが23個も存在するのだから驚きである。
しかし籠城するとなると、そんな山に囲まれた地形がプラスに働くと言うものである。23個のトンネルを全て封鎖してしまえば、外からは思うように進行できないのだ。
更に水路も。日本三大急流の一つに選ばれている球磨川から侵入しようとしても、返り討ちに遭うだけ。人吉リフティング部の鉄壁のディフェンスが、外部からの干渉を阻止してくれる。
この守りに適した人吉市で、熊本県民は自給自足の生活をしながら、日々を過ごしている。
そしてこれはただ、身を守っているだけではない。熊本県民は、力を蓄えているのだ。
それというのもこの人吉市、元々聖地と崇められている、ありがたい土地なのである。
ぶっちゃけアニメ『夏目友人帳』や『レエル・ロマネスク』の舞台のモデルになったから、聖地と呼ばれているだけなのだが、「ここは聖地たい、住んどったらえらいパワーが貰えるに決まっとろう!」と誰かが言い出したのをみんなが信じて。プラシーボ効果により、熊本県民は本当にすごいパワーを得つつあるのだ。
というわけで、これでいつ・ヴィラン・ド・サ・ガ星人との決戦の時が訪れても大丈夫。しかし今はまだその時ではない。
しばらくはこれまで通り籠城を続けて、力を蓄え続けるのである。
さあ、今日もまた熊本県のトップが、人吉に住まう県民たちに力強い言葉を投げかける。
『モンモーン(さあ、ボクといっしょに踊るんだモーン!)』
籠城が始まって以来、県の最高指導者は……いや、最高指導熊はあのゆるキャラが勤めていた。
真っ黒なボディに赤いほっぺをした、熊本を代表するあの熊のキャラクターである。
今日も熊本県民たちはくまモン体操をしながら、人吉の地でのんびり暮らしている。
肥前さが国やゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人の事など半ば忘れて、のんびり暮らしていくのであった。
クマモトケンミン、ロウジョウセヨ 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi
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