私は何も知らない

@masaki1256

第1話

 僕は24歳の春、一冊の本を書く事にした。物心ついた頃から本が好きというわけでも無く、取り柄がない僕にとって本は逃げ道の一つでもあった。

 僕は多分誰かと同じ気持ちを共有したいと思っただけにすぎない一人の人間でこの物語が完結する頃には、僕を知る自分はこの世には存在しない事を願いたいものだ。「人間は日々忘れる生き物だ」と言った哲学者のヘルマン_エビンクハウスでさえ忘れない事は不可能でそれは同時に多くの日常を目の当たりにしている僕らにも同じことが言える。けれど僕は未だに彼女の事は忘れてはいないし、きっと僕もそうでありたい。


 

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