遺品
父が死に、葬儀を終えた数日後、ようやく妹が家に現れた。
父と妹は不仲であった。
ふたりにたずねても、いさかいの原因は、教えてもらえなかった。
もしかしたら、特別な事件などはなく、お互いに、生理的・本能的に受けつけなかったのかもしれない。
妹は全寮制の高校に入ってしまうと、それっきり、ほとんど家には寄りつかなかった。
殺意を込めた言葉を父に吐いていた家の中へ、妹は久しぶりに入ると、無表情のまま、リビングのソファに坐った。
父の霊前には、近づこうこともしなかった。
私は遺産の処理について、淡々と説明をした。
家を壊し、更地にして売ることを告げると、妹は深くうなづいた。
それは、妹の強い要望であった。
そして、予想通り、妹は遺産の受取りを拒否した。
「それでは預かっておくが、僕が死んだら、君の子供のところへ行くようにしておくが、それは構わないだろう?」
僕の提案に対して妹は、「好きにして」とだけ答えた。
念のため、遺品の中で欲しいものがあれば持っていくように、妹へ告げた。
父の物など何もいらないと思っていたが、予想は外れた。
妹は、父の寝室に置いてあった、古い西洋ランプを望んだ。
ほこりをかぶっているランプは、私たちが生まれる以前に、父がどこからか買ってきたものだと聞いている。
品のいいものだが、価値がありそうには見えない。
妹に何かしらの思い出があったのかもしれないが、聞きはしなかった。
ほかに何かいらないかと尋ねたが、妹は返事をせず、太もものうえに置いたランプを、じっと見ていた。
父の四十九日の朝、警察からの電話で目が覚めた。
妹の自宅で火災が起き、一家全員が焼死したとのことであった。
出火の原因は、玄関に置かれていたランプの可能性が高い、という話であった。
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