生に名もなく死に残る事もない

白川津 中々

 先日元知り合いが炎上した。

 知り合いといっても少しばかり話をした事があるだけで特別深い付き合いだったわけではない。互いに暇な時間を潰すための仲で、人生のページに名を記すような(少なくとも向こうはそうだろう)事もない、そんな関係だった。その人とは俺の方から一方的に絶縁してしまい今日まで交友は絶たれている。共通の知り合いから配信者になったと聞いてはいたが、それ以外は知らなかった。


 ある日、その共通の知り合いから「あの人が炎上したよ」との報せがあった。なんでも失言を吐き叩かれたらしい。迂闊な事だと思った。


 詳細は伏せるが、確かにその人の発言に非があったのは事実であり、馬鹿だなと思った。しかし俺とはもはや縁が切れていたため、「やらかしたね」と述べる知り合いに同調しつつも内心は興味がなかった。そのはずだった。


 日を追う毎にモヤモヤと燻りが生じる。その燻りが何であるのかはすぐに分かった。俺はあの人に、間違いなく嫉妬しているのだった。



 正直、配信業というものにはマイナスなイメージがあった。芸のない人間が、わちゃわちゃと騒ぐだけで囲いから金を巻き上げ、見世物として広告代を稼ぐ賤業だと、ずっと思っていた。だが考えてもみれば彼らも当然努力している。動画撮影から配信まで多くの時間を有し、キャラクターを演じながらコメントを残さなければならない。その上で、数多いる配信者の群から抜け出なければ食ってもいけない。失言が取り沙汰されるレベルというのはほんの上積みである。つまりあの人は、人生において何者かになったという事なのだ。俺とは違う。


 それに気がつくと俺は小説を書いているのが虚しくなった。努力もせず夢を見続けるている自分の人生が酷く苦しく感じられた。


 それでも俺は話を書き続けると思う。思うが、あの人のように、光輝ける日が訪れる事もないように思える。才も努力も覚悟も不足している。自分で書いたものを読むと面白いと感じる反面、どこかでそれを否定してしまう。俺は死ぬまでそのままだ。有象無象に混じり消えていくのだと、頭の中で声がする。自己否定と絶望に苛まれる毎日が辛い。


 輝けない日常の中では光がいつも眩しく俺を照らす。溶けるばかりで、何も為せず。全てを諦めてしまえれば楽なのに。これもまた、自己満足、自己陶酔……

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生に名もなく死に残る事もない 白川津 中々 @taka1212384

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