第17話 “天渡姫”のいる日常

 “天渡姫”は部屋に差し込んだ光で目が覚めた。彼女は昨夜自分の話をした後、ギルダと エリーザと共に別の部屋に移り、ベッドに入った。右側にはエリーザが棺に彫刻のように まっすぐ寝ている。


 彼女の記憶では左側にギルダがいたはずだったのだが、彼女はいなかった。しかしエリ ーザのものではないびきが微かに聞こえた。


 ベッドの下を覗き込むとギルダが小麦色で健康そ うな腹をを出しながら寝ていた。ベッドに十分なスベースがあるのにも関わらず、ギルダ がそんな場所で寝ていることに“天渡姫”は疑問を覚えた。


ギルダの事をまじまじ見ていると、ギルダは寝返りをうち、そのまま転がると壁に頭をぶつけた。


「いてっ」


  ギルダは寝相が悪かった。彼女は部屋全体がベッドであるかのように扱った。


「ギルダの寝相、面白いですよね」


後ろから鈴を鳴らしたかのような声が響いた。エリーザが起きたようだった。


「今日はよく寝れましたか?」

「うん、こんなにぐっすり寝たの久しぶり」


“天渡姫”は1人で旅をしている間、常に人間に見つかるかもしれないという緊張感と共 に過ごしていたため、ぐっすり寝たことはなかった。


「さあ、準備しましょう。女の子は身だしなみも大事ですよ」


エリーザは魔法で水を出しながら、“天渡姫”の全身を洗った。彼女が湯浴みしたのは一 ヶ月も前だったので、汚れがたくさんついていた。全身を洗い終わった“天渡姫”は見違え るほど美しくなった。


「さあ、ギルダも起きて下さい」


  エリーザは水を球状にしてギルダの顔の上まで持っていくと、それを落とした。水はバシャンという音を立てて、ギルダの顔に弾けた。


「ブワッ、その起こし方やめろって!」

「普通に起こしてギルダが起きたためしがないじゃないですか!」


  朝から口論をしている2人はやがてエスカレートしていき、魔法で水を作り出してぶつ け合った。その光景を見て思わず“天渡姫”は笑ってしまった。“共に歩む”は朝から慌ただしかった。


  エリーザとギルダは喧嘩を終えると、水浸しになった部屋を魔法で乾かし、急いで準備を進めた。出発する準備が終わるとラクヤを呼んだ。


「“天渡姫”、このあと予定を聞かせるぞ。とりあえず昨日みたいに魔法をかけて“天渡姫” を見えなくさせる。そしたらライヤーさんについていってくれ。ライヤーさんには“天渡姫 ”は見えてるから大丈夫だ」

「ライヤーさんって人間だよね」

「そうだ、人間だ。でもライヤーさんは誰よりも優しい。人間だからといって怖がってし まったら、それは差別する人となんら変わらない。まずは人間に慣れよう」

「分かった。頑張る」

「強い子だな」


  こうして“共に歩む”とライヤー、“天渡姫”は別行動することになった。


 “共に歩む”は依頼達成の旨を村長に伝えた。念の為幻想魔法で魔族の遺体を作り出し、 それを村長に見せた。実際には依頼を達成したわけではないので、報奨金はもらわなかっ た。


 しかしどうしてもお礼をと言って、野菜や食べ物など多くの食料品を渡してきたので それだけはもらった。

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”共に歩む”は共に歩む~国を追放された勇者パーティーは気ままに旅をする。追放した国は強国から弱小国家になったらしいけど、俺たちはスローライフを楽しみます~ 紫 凡愚 @zif40338

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