ガチャガチャライフ

長月瓦礫

ガチャガチャライフ


絶叫が響く。また自殺したらしい。

デバイスをテーブルに叩きつけた。

頑丈なケースとフィルムにはめられたそれは、軽い音を立てて転がり落ちた。


円卓では白のケープを纏い、ブルーライトカットメガネを装着した神々がデバイスの画面をかじりつくように見ている。

最近、楽園ではある遊びが流行っていた。


元々、人間界で流行っている遊戯だった。

それに目をつけ、楽園にまったく同じシステムを導入してしまった。


それが人生ガチャだ。人間を景品に見立て、ガチャガチャを回す。

引き当てるとデバイスに人間が登録され、その人の人生を見守るだけのシンプルなシステムだ。


楽園に住む神々の仕事は、人間の様子を見守ることだ。

時に誰よりも祝福し、時に誰よりも涙を流した。


ガチャガチャといういらない手間を加えた理由は他でもない。

人間が生む格差に愛想を尽かしたからだ。


生まれ育った環境や個体差などで優劣がついてしまい、悲惨な結果になるのを何度も見ている。その差を埋めようと四苦八苦していたが、一向に改善しない。

それどころか、人口は増え続け、その差は広がるばかりだ。


このガチャ制度が導入されたことで、すべてが解決した。

優劣の差を埋めるのではなく、格差を楽しむという発想に至ってしまったのだ。


ガチャガチャから排出されるキャラクターもとい人間にはランクが存在し、高ければ高いほど能力が高い。


もちろん、能力があるからといって、幸福な人生を歩むとは限らない。


能力の高さ故に、恨みを買って殺される。

能力の低さ故に、隠れた才能が花開く。


何が起きるか、人間を引き当てるまで分からない。


一見何もなさそうな人間が大逆転する展開も何度も見た。

すべてを持っていた人間がひょんなことから転落していく姿も何度も見た。


まさに玉石混淆、何が出るか分からない。

どんな人生を歩もうが、神々は見守ることしかできない。

今のように自殺に追い込まれても、救いの手を差し伸べることもできないのだ。


また、ある程度の期間が経てば、手放すこともできる。

別の人間に乗り換えることも容易になった。

この制度を導入したことで、煩わしい引き継ぎ作業もなくなった。

人間の経歴は、紹介文にすべて記載されているからだ。


当然、その高ランクに位置する人間をほいほいと渡すわけがない。

ガチャガチャから出現する確率を極端に下げ、当てにくくしているようだ。


まさに賭博の手法ではないか。

こんな鬼畜なことをしていると知ったら、ありとあらゆる宗教徒が暴動を起こすに違いない。姿が見えないことをいいことに、自由にふるまっている。


それもこれも上司の上司のそのまた上司といくら数えてもキリがないくらい、立場の高い神様が決めた。平神様であるわっちがどうこう言えた立場ではない。


「そんじゃ、次はお前の番だからな」


上司がデバイスを拾い上げ、わっちに携帯を投げ渡す。

眼鏡の位置を調整し、ガチャガチャのレバーを引く。


金色に輝く星が5つ並び、歓声が起こった。

テレビの方を見ると、某国の大統領選挙の結果が発表されていた。


この男は歴代最高齢となる大統領で、議員としての経歴も長い。

具体的なマニフェストは知らなかったが、テレビで歓声を上げる支持者の様子は熱を帯びている。


「これはこれは……おもしろい結果になったじゃないか」


「お前、なかなかいい奴を引き当てたな!」


同僚は嬉しそうに肩を叩いた。

他人事だと思って、好き勝手に言っている。

これから先、さらに混沌を極める人間界の行く末を案じた。


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ガチャガチャライフ 長月瓦礫 @debrisbottle00

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