殿下から小バエに怒りの鉄槌が下されました

「先程から黙って聞いていれば、僕の婚約者に愛想が無い鉄仮面だと?

ふざけるのも大概にしろ。


僕の婚約者はこの国の令嬢の中で一番素晴らしい人だ。過去にこのような強くて優しい人は居なかったと聞いているし僕もそう思っている。


君は自分の事を愛想のある人間だと思っているようだけどそれは違う。君は人のことを考えれずに自分の利益や見栄を優先するような愚かな人間だ。


そんな人間に僕の婚約者を馬鹿にされたくはないな。」


「そんなッ・・・"あたくし"はただ殿下とこの国の行く末を思ってッ・・・!!!!」


「さっきからその"あたくし"って言っているのは何だ?

新しい生物の名前何かか?正しくは"わたくし"だ。変なところに貴族としての矜持を持っているらしいがちゃんちゃらおかしいからやめたほうがいい。


市井で育った時からきっと傲慢だったんだろうね。」


「君のような努力もしていない令嬢に僕の婚約者を馬鹿にする権利があるのか?


市井から上がって5年も経つのに礼儀作法も知らない・・・いや、知ろうとしていない君は赤子よりもタチが悪いよ。


ここにいるマリーは3歳の頃から僕の婚約者なんだ。3歳なんてまだ好き嫌いもはっきりしない状態なのに陛下からの王命で僕と婚約することになったんだ。マリーならもっとふさわしい相手がいるはずだと何回考えたか分からない。


マリーに対して僕は尊敬している。この世で1番初めに尊敬した令嬢はマリーだ。


半ば強引な王命により婚約を結ばれ5歳になる頃からは王太子妃としての教育が王宮で施されるようになった。


王太子妃になるのは誰もができることではない。王妃から厳しく叱責されながらもマリーは婚約者であり続けることを選択してくれたんだ。新しいことを覚えたり習得する度に『王太子妃ならそれくらい出来て当たり前だ』といつまで経っても周りの人間から褒められる事も無い。それでもマリーは与えられた課題や試練を乗り越えてきたんだ。


もちろん僕も王太子としての教育があったから常に隣で見守ることは出来なかった。しかし、毎月行われるお茶会の度にマリーは幸せだと僕に微笑んでいた。王太子妃になるのは決して簡単な事では無いけれど僕を支えたいと。


思わず泣いてしまったよ。歳を重ねていけばいくほどマリーは素晴らしい令嬢になった。最初は苦手だった針仕事も今では素晴らしい腕前になり僕にハンカチをプレゼントしてくれる。


王妃から何度も『貴方は王太子妃としてふさわしくない』と言われながらも僕の隣に立つために愚直に努力し続けたんだ。今となっては王妃から『王太子妃は貴方しか考えられないわ』と言われるまでの令嬢になったんだよ」


殿下の言葉に思わず涙がこぼれます。こんなにも私のことを思ってくださっていたなんて・・・。


「マリー、泣かないで。僕の隣に立つのはマリーだけだ。これまでもこれからもずっとマリーは僕の最愛の人だ。」


殿下は私を抱き寄せ、背中をトントンと優しく叩くのでした。


「──・・・めない。絶対に認めないんだからッ!!!あんたなんかにルーズ様は渡さない!!早く離れなさいよッ!!!じゃないと刺すわよ!?!?」


どこに隠し持っていたのか小さなナイフをこちらに向けながら小バエが発狂しています。きっと何も知らないのでしょうね。


「影、聞いたか?王族とその婚約者に敵意を剥き出しにし刃物を向けているこの愚か者を捕らえろよ。」


殿下は静かに自身の護衛である影に命じました。


「御意」


影が返事をしたと同時に5人ほど現れ、目の前の小バエを捕縛しました。


「王宮の地下室に拘束しておけ」


「離しなさいよッ!!!離せッ!!!!!!誰に触れていると思っているの!?!?!?」


見苦しく騒いでいますが、影たちは一向に力を弱めることなく小バエを連行していくのでした。

そして当たりが静寂に包まれた頃、

殿下が私に問いかけるのでした。


「マリー、よく頑張ったね。


今まであの小バエのせいでマリーに不安な思いを沢山させてしまった。それに悪意のある噂の的にされてしまっていたのも知っている。


僕が早く突き放しておけばきっとそうはならなかったはずだ。


こんな愚かな僕だけどこれからも隣に立っていてくれるだろうか?」


目の前の不安そうな愛しい婚約者に向けて私は一言だけ・・・


「殿下、これからはルーズ様とお呼びしてもよろしいですか?もう何年も前から愛称で呼びたくて仕方がなかったのです・・・」


「ッ・・・!もちろんだよ!僕の愛しいマリーッ!!!」


強く抱き寄せられ2人で幸せを噛み締めていると・・・


「「「素晴らしいですわッ!さすがマリー様ですッ!!!!!!」」」


と大歓声が上がりました。

事の顛末を遠巻きに学園の者たちが見守っていた事を私もルーズ様も気付いていなかったのです。目の前の愛する人を守るために必死で周りが見えておりませんでした。


恋は盲目とはこのことですのね。

私、とても幸せです!!!!!!!!


「愛しています、ルーズ様!」


その日、初めて私からルーズ様に口付けをしたのでした。【完】



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ここまでお読み頂き、

ありがとうございました。

余談にはなりますが、

侯爵令嬢(小バエ)は侯爵家より廃嫡され

市井の娼婦として一生を過ごしました。

王家の者が目を光らせ、

出産も結婚も出来ずに寂しく

一生を終えたのは

第一王子の指示でした。


ルーズがマリーにした隠し事は

生涯唯一これだけでしたとさ。おしまい

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自称ヒロインに勝手に断罪されそうなので完膚なきまでに叩きのめしました。愛しの婚約者は渡しませんよ?殿下から愛されているのは私です。 @sh1onm

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