自称ヒロインに勝手に断罪されそうなので完膚なきまでに叩きのめしました。愛しの婚約者は渡しませんよ?殿下から愛されているのは私です。

@sh1onm

小バエが殿下の周りを飛び回っています

私―マリンセント・マックミラー(公爵家長女)―には3歳の頃より婚約者がおります。

トワイライト国の第一王子である、ルーズベルト様です。

最近、どうやら小バエに集られてしまって迷惑しているようです。



「どうやら僕は小バエに好かれているようだね」


私の婚約者は冷やかな微笑みを自身の右腕にまとわりついている令嬢に向けております。


「まぁっ、それは大変ですね!マリンセント様、ルーズ様を解放してください!!!愛のある結婚をするべきです!"あたくし"がルーズ様を幸せにします!」


図々しくも小バエはよく喋ります。

そして、愛されているのは自分であると勝手な主張をしてきているのです。


この小バエの名前はサンドラ・カサブランカ。市井で育ち、5年前に候爵家に引き取られたご令嬢です。5年も経っているというのに淑女としてのマナーも教養も身につけていない所詮は平民と変わらないような女です。得意なことは上位貴族の令息の周りを飛び回り、その令息に媚びを売りまくることです。それも婚約者がいる令息に対しては、その婚約者の令嬢に虐められたなどと虚言を吐きまくりご令嬢と小バエの間で常に舌戦が繰り広げられております。


そんな小バエに宣戦布告をされて、黙ってはおけません。成敗しようと思います。


「貴方、誰の腕に絡みついているかご存知?」


「もちろんですっ!ルーズ様に決まっているではありませんか。"あたくし"の事が大好きなルーズ様です。それの何がいけないというのです?」


さも当然であるというような表情で聞き捨てならない言葉を口にしました。


「殿下が貴方のことを大好きですって?寝言は寝てから言ってもらえますこと?殿下は私の婚約者です。そのように軽々しく腕に纏わりついてはなりません。」


すると小バエはいつもどおりにこう答えるのです。


「る、ルーズ様ッ!マリンセント様は毎回このように"あたくし"のことを虐めるのです!怖いですわッ・・・」


先程よりも強く腕に纏わりつき、殿下の顔を涙目で見上げながら無い胸をギュウギュウと腕に押し付けています。それを見て殿下は毎度こう告げるのです。


「カサブランカ候爵令嬢、そのように纏わりつかれては困ります」


この言葉に対して小バエはいい気になるのが王道ルートです。


「そんなに恥ずかしがらないでください。ルーズ様!"あたくし"が殿下の事を救って差し上げます!」


見当違いもいいところです。殿下はさっさと離れろと言いたいのですよ?


「貴方、早く離れていただけないかしら?ご自分で離れられないというのであれば衛兵を連れてきて離させてもいいのですよ?殿下が許可をしていないのに腕に纏わりつくなど、不敬に問われても仕方がありませんわよ?そもそも、その貧しいお胸を腕に押し当てたところでどうにもなりませんわ。」

(さっさと離れなさい)


「"あたくし"とルーズ様は愛し合っているのです!そのような事はありません!そうですよね?ルーズ様!」


小バエは自信満々に殿下に問いかけます。


「いや、早く離れてくれないか。君のような虫けらに四六時中周りを飛び回られては気分が悪い。」


蔑んだ眼差しを小バエに向けながら自身の腕を引き抜きました。そして、私の方にやってきたのです。


「マリー、ごめんね。小バエがうるさいからここで片付けてしまおう。マリーに敵う女性はこの世に存在しないのに・・・」


殿下は私の腰を抱き寄せながら蕩けるように微笑みました。


「ありがとうございます。殿下の事を支えることの出来る妻になるために愚直に頑張ってきただけですわ。お慕いしております。」


殿下の方に寄り添いながら自分の思いを告げるのはとても幸せなことです。


「なんでッ・・・!!なんであんたなんかがルーズ様の隣にいるのよ!!!!"あたくし"の方がルーズ様にふさわしいのに!!!!!」


「貴方のような人間が殿下の隣に居ては大変な事になります。殿下はこの国の次期国王なのですよ?国を愛し民を愛し国を束ねる人になるのです。そのような高貴な方の隣に平民のような貴方が居ては殿下の信頼が揺らいでしまいます。また、隣国からも後ろ指を刺されることになるでしょうね?」


「そうだね、僕のマリー。」


殿下は止めることもなく、私の手を取り指を絡めて愛ではじめてしまいました。


「それに令息達の周りを飛び回って虐められていると虚言を吐いているようですが?」


「虚言じゃないわよ!!みんな、"あたくし"に嫉妬して陰口を言ったり複数人で取り囲んで責めたてたりしてるじゃない!!!」


「まぁ・・・それが虐められていると言えるのかしら?自分の大事な婚約者の周りに小バエが飛んでいたら目障りですし、誰でも小言くらい言いたくなるのでは?


そもそも貴方に嫉妬するようなレベルの低い令嬢はこの学園には居ないのよ?

貴方が常に見下している伯爵家や子爵家、男爵家のご令嬢はきちんと淑女教育を受けて立派に成長しつつあります。


それなのに貴方は候爵家に引き取られて5年も経っているというのに淑女としての矜持すらないではありませんか。


それに対して貴方が身に付けたものといえば、高位貴族として格下の家のご令嬢を見下して男性の周りを飛び回ることよね?」


「ッ・・・!!淑女ってなによ!気に入らないことを気に入らないと言って何が悪いの!?あんた達みたいに他人のことを嘲笑う事でしか自分の立場を守れないような心の貧しい人達に言われたくないっ!」


「嘲笑われる人が悪いのでは?何も間違ったことは言っておりません。素晴らしい方にはきちんと敬意を示すことが当たり前なのですよ?


今年ご入学された貴方と同い年のアンドレア男爵令嬢は音楽に才があり先日のコンクールでは金賞を取られたそうよ?とても素晴らしい腕前だと男爵令嬢を褒める方は沢山居ますけども、八百長だったなどと触れ回る人は今はひとりも居りませんのよ?


それがどういうことか分かりますか?


あの方は、自身の実力で審査員の買収などという不名誉な噂を捻り潰したのです。素晴らしいですわよね?」


「あぁ、マリーの言う通りだ。昨年、最年少で初めて受賞した時にその話で持ち切りになったからね。それから1年、悪意ある噂に晒されながらも血のにじむような努力をしたに違いないよ。それを見込んで今年の審査員は王宮から選出されたから不正は一切認められない状態だったしね。それにしてもマリーの指は細くて美しいね。」


殿下はまだ私の指で遊び足りないようです。話を聞いていないようでもきちんとフォローをしてくださる殿下に対して愛しさが募るばかりです。


「あんたみたいに鉄仮面をぶら下げて愛想も無い人間が次期王妃とか笑わせないでよッ!!!!"あたくし"の方がきっといい王妃になれるわ!!!!」


ふぅ…頭が痛くなってきて、思わずため息をついてしまいました。


「貴方の言うような愛想は私にはありませんわね。でも──」


「ほら!!!自分で認めてるじゃない!!!!!」


まだ私が話している途中ですのに・・・


「うるさいよ。マリーの言葉をさえぎって喋るな。僕が許さないよ」


殿下は小バエのことをきつく睨みつけました。


「ッ・・・!!」


「ここからは僕が変わりに答えるよマリー。このまま婚約者を馬鹿にされて黙っていられるほど寛容ではないからね。」


私の頭を撫でながら殿下は怒りの矛先を目の前の小バエに向けるのでした。




つづく

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