首と機械

渦黎深

首と機械

博物館のサメの全身骨格の

首にかけたロープにぶら下がって、彼は死んだ

彼の命とアンモニアの匂いは

サメに吸われてきれいに透き通り、どのレンズにも映らない

コンピュータは水中でチコチコ音をたて

彼を次に見るのは、百年後の学芸員だと予想した


そんなはずはなかった

彼は桜に縊れて死にたいと言っていたから

凍りついた、なまっ白い腕が、目と鼻と口をそっと塞ぐのが見えたら

誰にでも春が来るのだった

 

彼を見るためにサメの前に立つ

眼がぞろりと蠢いてサメは動き出す

私はサメを引き連れて公園を往く

ざばっ、コンピュータは見ている


桜に立てかけたサメが、空咳ひとつ

青すぎる彼の首筋に吹く

土を掘る私の首筋に吹く

掘りながら、私の頬に涙が伝う

背中を向けた人が見ている


桜に縊れて死にたいと言ったのは、私だったかもしれない

土に塗れた二つの骸は私を見つめる

これら全ては、残るはずがない

これら全てが、残るはずはない


ざぶん

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首と機械 渦黎深 @atuwasabibi

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