第5話 阿吽
毒々しく刺々しい植物生い茂る八大地獄の自然保護区を刺激せぬよう慎重に朧車が、走る。
「ゴンは、しれっとああいう事をする」
あばらの目立つ黒い狼を撫でながら、
「ガサツなのに気配り出来ますよね。
同意したのは、櫛と同じ色の三毛猫で二又のしま。巫女装束に身を包み自分の顔ほどの鈴を首に下げている。巨大な妖怪に反応する
「意匠を私達に合わせて選んでくれるのが、実に言太君らしいですね」
陰陽師の
「樹海に入ってもう随分経つだろ。反応無しだな」
菊葉は、そう言い水晶を覗く。
「ですね。倒されてるのかもしれません。樹海そのものが、手に終えませんし、そんな所で暴れたら死んじゃいますよ。普通」
「普通じゃないから依頼が、来てるんですよ。菊葉さん私のならさわって良いですよ」
「いや、いい」
水晶越しに、しまの桜色の肉球を見ていた事を見透かされた菊葉は、苦笑いを浮かべ狼の前足を揉みながら外の景色に目を移す。
外には、傷付けた者を完膚なきまでに傷だらけにする植物達が、ずたぼろにされた風景が、広がっていた。
「里子の言う通りだな。戦闘準備を整えろ」
菊葉は、素手と素足に
里子は、手に持った扇子を投げつけ、茂みから飛び出した地獄犬の鼻っ柱を叩いた。菊葉は、怯んだ自分程の大きさの地獄犬に飛び込み喉をかっさばき、尻尾を掴むと高々と振り上げ回す。自分に向かってくる地獄犬を狙い放るも尻尾が、千切れ胴体が明後日の方向に飛んでいった。
姿勢を崩した菊葉に地獄犬が、牙を向け飛びかかり音をたて噛み締めたのは、里子の扇子だった。
扇子は、相手の硬直を逃さず乱暴に地面に何度も叩きつける。相手が、地面を跳ね宙を舞うと菊葉が、勢い良く蹴飛ばし大木に衝突させた。
大木が、ぶつかって来た外敵を根子で踏み潰す音だけが鳴る中、遠吠えが、轟く。
「親玉が、来るなら話は、早いんだが」
菊葉の上に影が、落ちる。
衝撃が、音と共に白い光となって障壁を走る。歯を食い縛り仁王立ちの狛犬には、目立った傷は、付いていない。
「吽形ねえ」
弾き飛ばされた菊葉が、起き上がり思案する。
その様子を見た狛犬は、相手に攻めて無しと判断したのか真っ直ぐに突っ込んだ。菊葉は、右足を後ろに左肩をだらりと下げ静かに腰を沈め相対する。
迷い無き頭突きと有らん限りの前蹴りに、木々がざわめき樹海が騒ぐ。障壁に阻まれ後ろにのけ反るも踏ん張り耐え抜き、そのまま力を右拳に送る。狛犬が、障壁で手甲鉤をいなしより深く前に詰めていった。
巨体で押し潰そうと両足を掲げる。両者の間に扇子が、割って入り先端を狛犬に向け里子が、腹をポンと叩く。扇子は、狛犬程の大きさになり前足を受け止めた。
菊葉は、扇子の上を駆け上がり狛犬の背中へ跳躍する。空中で両足を抱え背中に乗る瞬間、力の限りをぶつける。里子に目線を送り地面へ押し潰された討伐対象の毛皮を両足で握ると、そのまま宙返りし空に投げ捨てた。投げた先には、巨大化した扇子が、構えており遠心力を乗せ叩き落とす。
落ちて行く先に菊葉が、肩と腰を沈め待機する。それを阻止せんと地獄犬が、群がり辺りに血と甲高い悲鳴が、舞う。
血にまみれた菊葉は、邪魔者を瞬く間に噛み砕いた
足に衝突し神経が、暴れ内臓が、押し上げられ眼球が、上を向き小刻みに震え即座に動かぬ体を動かそうと試みる狛犬は、新たな衝撃に宙を舞い景色を二転三転させた。
横を向くと片足を上げた外敵の姿が、有った。
「結界にも範囲が、有るみたいだな。前方だけかな」
「菊葉さんの攻撃を防ぐ何て、野良でも狛犬なのですね」
里子は、植物から執拗に消化液をかけられるも障壁で防ぎ続ける狛犬を見ながら感心している。
「皆さん怪我は、無いですか」
「しまか、大丈夫だよ。さっさと止めをさそうか」
面倒になる前に始末を終え様と狛犬に近づく菊葉。歩みは、軋む音を立てながら倒れる巨木に遮られた。
巨木の根元には、狛犬の阿形である獅子の姿が有った。
「そうかい間に合ったか。それじゃぁ……、本番といこうか!」
菊葉は、巨木を投げつけ狼煙を上げた。
討伐鬼 化け @7724
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