第4話 社の儀式

 地獄にある幻朧村まぼろむらの中心にこじんまりとやしろは、建っている。古びているが、手入れが行き届き荒れていない。

 菊葉きくは達四人は、鳥居をくぐり庭へと入った。両端に太い老木が、生えている以外は、何もない場所だ。

 「始めるぞ」

菊葉は、しまに手をかざした。庭の中心まで歩きしまは、羅刹鳥らせつちょうを封印した巻物と新たに空白の巻物を取り出し地面に広げた。そして人の目玉をついばむ鶴が、描かれた巻物に集中し、首から下げた鈴を鳴らす。

 巻物の鶴が、首をあげ翼を羽ばたかせ巻物の外へと飛び出した。

 巻物は、白紙に戻り空中に羅刹鳥の魂を内包した巨大な紫の炎が、現れしま達を熱で包む。瞬間、老木の枝が、伸び炎ごと魂を突き刺す。

 紫炎が、飛び散り言太ごんたは、期待から笑みをこぼす。

 中から羅刹鳥の魂が、姿を現した。封印された時と違い青と緑の二色が、お互いに引っ付いた形をしている。

 それぞれを串刺しにした老木は、お互い逆に身をよじり魂を二つに裂いた。

 しまは、すかさず呪文を唱える。二つの魂が、別々に二本の巻物へと吸い込まれていった。

 社に静けさが、戻りる。

 新たに鶴が、描かれた巻物と、緑の火炎が、描かれた巻物を丸めて懐にしまいこみ安堵のため息を吐く。

 里子りこが、肉球を合わせしまに小さく拍手を送り口を開いた。

「緑色でしたね」

そう言われ仕事を終えたしまは、やはり変だといぶかしんだ。

「初めて見るな」

菊葉が、答えると顎に手を当て状況の整理を続けた。

「羅刹鳥の魂は、いつも通りの青だったな」

菊葉の言葉にしまが、うなずき間の手を入れる。

「妖怪の魂を狂わせる怨念は、普通黒ですよ。明らかな異変です」

 妖怪の魂は、本来青く燃える魂一つだけでありそこに地獄に漂う黒い怨念が、交わり巨大で凶暴な妖怪になり暴れだすのだ。

 「やたらと狂ってた理由かもな。考えてもさっぱりわからんが」

今は、どうでも良いと言太が、話しに割って入る。

 「そうだな情報が、足らなさすぎる。こちらも急いでいるしな」

「ん? キク姉よ、急ぎって何だ」

「狩りだよ。依頼が、入った。付いてこなくて良いぞ」

菊葉は、傷だらけのサラシに巻かれた弟を見て質問に返した。

「何でだよ。俺も行くぜ。体は、暖まってんだからさあ」

意気揚々と肩を回す言太の脇腹を菊葉は、かるく蹴る。巻いたサラシに血が、広がり言太の厳つい顔が、情けなく崩れた。

「式神の準備は、終わってないだろ。武器の手入も残っているし、療養ついでに色々済ませとけよな」

「そうですよ言太さん。お札で塞いだ傷も激しく動くと開いちゃうんですからね。読書でもしてお留守番しててください」

しまは、懐から巻物を二本取り出し言太へ渡す。

 「中食も済ませておけよな。私達は、夕餉ゆうげに帰る」

そう言い鳥居の下で四つに纏められた手甲鉤てっこうかぎを咥え待機していた、黒い毛皮越しにあばらの見える狼に目線を送る。

「うおっ、相変わらず神出鬼没ですね」

驚くしまに目もくれず狼は、走る。痩せて見えた体は、筋肉質で力強く地面を蹴り、瞬く間に菊葉の下に駆け寄った。

 菊葉が、手甲鉤を受け取り狼の頭を撫でる。

「狩りには、この草絢そうけんと里子。それから連戦になって悪いが」

菊葉は、連れていく相手に大きな怪我が、ないか確認し言葉を続けた。

「しま付いてってもらうぞ」

「何故だ」

「何故って何故お前が、反応するんだ。ゴン」

「俺が、駄目で何でしまは、良いんだと言っている」

「良くは、無いが、奪魂鬼だっこんきのお前と違って代えが、効かんしな。しまの様な愽魄鬼ばっばくきは、村に二人しか居ないし一人は、別件だ。知ってるだろ」

「俺だって動けるって一人でも戦力が、」

「姉ちゃんの言うことが、聞けないってか? 蹴破るぞ」

「……いやそれは、それで、そのう」

しどろもどろになりながら言太は、脇腹を抑え後ずさる。さすがにこれ以上血も涙も滲ませたく無いようだ。

「のあ」

言太に無事な方の脇腹に唐突な刺激が、走る。

 状況を確認すると里子が、扇子でつつい様だ。

「つべこべ言わず大人しくする。周りを困らせては、いけませんよ」

「あんたが、言うかそれ」

「しまちゃん依頼内容ですが、」

「無視かよ。あひゃっ」

脇腹を抑えここに居てももう仕方ないと渋々退散する言太に里子は、手を振って話しを戻す。

「樹海に住み着いた狛犬が、凶暴化したようです。野生には、珍しく阿吽共に揃っているそうですよ」

「なに二頭いようが、こっちも二人だ。準備を終えてたら早速行くぞ」

「はい!」

 菊葉達は、各々準備を整え狛犬討伐へと向かうのだった。


 












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