第3話 称賛
「
しまは、
「良いぃいじゃねえかあ!」
しまは、不意の怒号に立ち止まる。
「狂わされてるが、関係ねえなあ!?」
言太は、血を吐きながら称賛を続ける。
目に破片が、入り怯んで崩した体勢が、たまたま直撃を避ける形になったようだ。
「どんなに劣勢でもめげずに勝機を探るのが、信頼置ける優れた戦士だ!」
溢れた血から骨と内臓が、垣間見える腹を、嘴で押さえこみ上から拳を振り落とす。地面に顔を打つ羅刹鳥。
下がった頭に言太が、飛び乗る。振り払おうと首を上げるも眉間に叩きつけられた衝撃で結局地面に伏せられる。
怒号を出す度に血と羽が、舞う。しつこく繰り返される作業に羅刹鳥の眉間は、羽毛が剥げ赤く湿った肉が、ベチャッグチャッと音を立てる。
「グギャアア!…………クゥ」
目を見開き肉塊となる羅刹鳥。
「やっと出たか」
死体から青白く巨大な火の玉が上へと昇っていく。火の玉と死体には、白い糸が伸びていた。その糸は、見るからに繊細で放って置くだけでも切れてしまいそうだった。
「しま」
「はい」
心得たと、結果を張るしま。複数の御札が、空中をとび立体的に火の玉を囲み紫の炎で包む。
「糸切ります」
次に巻物を取り出し軸を糸に目掛けて開く。糸は溶けるように切れた。
巻物は、下から火の玉を結界ごと吸い込んだ。
「魂回収しました」
手元に戻った巻物には、人の目玉をついばむ鶴の絵が、描かれていた。
「相変わらず手際が、良いな。余裕が、出たんじゃないか?」
相方の仕事振りを褒める言太。
「余裕なんて無いですよ。魂が、本体なんですから逃げられては、水の泡です」
「何を怒ってんだ。上手くいったじゃないか」
「ーー良いから座って下さい!治療しますよ」
遠くから魂の封印を確認した朧車が、戻って来るとそこには、具足を脱ぎ片目と腹にサラシを巻いた言太と、逢魔の水晶に話しかけるしまが、居た。
水晶の中には、
逢魔の水晶は、妖怪の害意に反応するだけでなく、他の逢魔の水晶との通信機能を持っていた。
「今活躍の顛末は、分かりました。今回の件は、申し訳ありませんでした。羅刹鳥の体は、いつも通りこちらで片しましょう」
「はい宜しくお願いします。なんで謝るんです?」
「討伐対象を甘く見積もってしまいましてね。それにしても言太くんは、本当に突拍子もない事をしますね」
「そうなんですよ! 普通自分から喰われます?やっぱりお馬鹿なんです!」
しまは、抑えた不満をぶちまける。
言太は、それについて弁明する。
「馬鹿は、無いだろ。攻撃が、当たるのが、硬い嘴や足ばかりなんだ。柔らかめの体は、空を飛んで届きゃしねえ」
「それで柔らかい舌を狙って口の中ですかーー単純お馬鹿!」
反論をしたかったが、うるんだ瞳で睨まれては、黙る他無い。
「悪かった反省している」
頭を下げる言太をみて朧車に乗るしま。
「早く帰りますよ。応急処置までで治療は、終わってないんですから、それに気に入ったんでしょ羅刹鳥」
羅刹鳥が、封印された巻物を見せる
「怪我を治したら、この子を式神にしますよ。良いんですよね」
「おう」
土が、多くあり川が横切る地獄に似合わぬ豊かな村。
「おそい」
入り口から、村と違い枯れ果てた大地をぼんやり眺め若い赤鬼の女が、ぼやく。
「心配ですか。
菊葉に声をかけたあやかしは、おもむろにいま拾ったカエルを菊葉の肩に乗っけた。
「きゃあっ」
不意のカエルにしりもちをつく菊葉。いたずらの犯人を見上げると、愉しげにクスクスと口を隠していた。
烏帽子をかぶり陰陽師が、着る
「
里子は、菊葉の手を引っ張りいつもの調子で、謝罪する。
「凛々しい菊葉さんが、あわてるの可愛くってつい。ごめんなさいね」
「そう言う事を真っ直ぐゆうな。それといたずらは、止めろ」
土を払い赤い耳を紅くして菊葉は、口元を隠し続ける相手をたしなめる。
「緊張が、ほぐれたら良いなあと、御二人が、心配なんでしょ」
里子は、自分のいたずらでそれた話を戻す。
「野郎は、心配無いが」
そう言い菊葉は、目を細めより遠くを見ようとしている。
「知っていますか菊葉さん。羅刹鳥が、
「知らない。何者だそいつは」
もうそろそろ来るはずだと、荒野を眺めながら質問する。
「街を直接襲って来ず、街から出ていく荷車だけを襲うんだそうですよ」
「流通を断って経済的に弱らそうってか。小賢しいな」
途中足元で鳴いているカエルに気付き、捕まえた虫を与えながら答える。
「しびれを切らした
「阿鼻丸が」
驚きの顔を里子に向ける。信じられないといった表情だ。
話を続けようとした里子が、村に向かって来る朧車を見つけた。体を乗り出して手を振るしまが、確認できる。
「帰って来ましたね。無事なようです」
里子の言葉を聞いた菊葉は、顔をそちらにむける。
「ただいま」
「帰ったぞ」
朧車から降りた緊張感に欠ける二人を菊葉は、にらみ付け激しい剣幕で捲し立てる。
「なんだゴン! その様は? まさか羅刹鳥に会ったんじゃないだろうな」
「そうだが、キク姉。何を今更」
「今更? どう言うことだ」
「知ってるはずだろ。姉ちゃんに依頼の事を伝えると、しまが」
「しま!」
「はい!」
「私は、何も聞いてないぞ」
「すいません。うっかりしてました」
「うっかりで済むか! 羅刹鳥は、阿鼻丸を倒す程と聞いたぞ」
「えっこの子そんなに?阿鼻丸さんって四通夜街、二番手の討伐鬼じゃないですか」
「まったくー」
頭を抱える菊葉。
そんな姉に言太が、質問する。
「キク姉は、なんで羅刹鳥を知ってんだ。しまは、言い忘れたんだろ」
「それは私が、風定さんから聞きました」
里子が、答え話しを続ける。
「阿鼻丸さんが、討伐に部隊を向けた時に言太さん達が、来たそうですよ」
カエルが、菊葉を見上げている。少し落ち着きを取り戻した様子だ。
「何も知らない御二人に注意喚起を込めて依頼を、出したようです」
しまは、風定との会話を思いだし疑問を解く。
「風定さんが、謝った理由は、そう言う事なんですね。とっくに阿鼻丸さんが、倒してて私達は、無事に帰れていると思っていたと」
里子は、うなずき同意する。
「複数の討伐鬼を倒せる羅刹鳥。風定さんは、私達に御二人の救援に向かうよう連絡をくれたのです」
「なぜそれを今になって言うんだ」
菊葉は、疑問を投げ掛け自分で気づく。
「そうか足が、出払ってるな」
「助けに行けないのに悪戯に菊葉さんを、心配させたくなく。申し訳ありません」
今迄の話しを聞いて言太は、戦闘を思いだし違和感を解く。
「ランカクは、連戦だった訳か。力の割に手応えが無えのは、阿鼻丸に消耗されたからだな」
「ランカクってこの子の名前ですか」
羅刹鳥の一連の話を、聞いてますます気に入ったご様子の言太にしまが、話しかける。
「そうだ。今やっと決まった」
「なんだ、名前を考えたのか。式神にするんだな」
調子を戻した菊葉が、言太に確認する。
「阿鼻丸を倒し、続けざま俺に喧嘩を売った豪傑だ」
菊葉は、ご満悦な言太を改めて見る。
サラシを巻いていない箇所にも大小の傷が、あり血とかさぶたまみれの満身創痍だ。
「式神の儀式を終えたら飯にするぞ」
そう言って菊葉は、村の中心に立つ
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